謎だらけ


 フェンは帰っていき、代わりに”ヨルム”が仲間になったものの。

 正直、どこからどう見ても同一人物だ。

 適当に夜ご飯を買って帰ったら好き嫌いして野菜を食べないし、相変わらず風呂に入りたがらないし、意識してないと彼女のことをフェンって呼びそうになる。

 実際、記憶も継いでるみたいだし……。


 ……色々なことが気になって、僕は夜になってもなかなか眠れなかった。

 彼女はおそらく、”テイムされた魔物”に近い存在のはずだ。

 同じような性質の魔物なんて沢山いるし、増えたのも納得できなくはない。

 魔物ではなく人っぽい性質に変わっているのは〈解放者〉のせいなんだろう。


 なら……この〈解放者〉っていうスキルは、何を何から解放しているんだ?


 今のところ、判明している性質はいくつかある。

 まず一つ目。僕が一人で倒した魔物が女の子になる。


「で、女の子化するケースがもう一つ……」


 ムルンと一緒にスライムのボスを倒したときも、フェンが一人で狼のボスを倒したときも、ボスは女の子になっていた。

 同じようなタイプのボスを人間化した魔物が倒した時だけ、ボスも同じように魔物化するのかもしれない。


 つまり、二つ目。僕が女の子にした魔物が同系統のボスを倒した時も、同じように女の子が増える。

 ムルンは融合してレベルを上げてたけれど、フェンも同じことが出来たろうか?

 うーん。狼系のボスが出る低難度ダンジョンを探してヨルムと一緒に行けば、検証はできる。明日はそうするべきかな。

 何も知らないままでこの力を持ち続けるのは少し怖い。


 そして、〈解放者〉の三つ目の力。攻略したダンジョンが特異性を失う。

 僕がダンジョンコアを吸収出来るのと関係してるんだろう。

 これに関しては、やってることが〈解放者〉っぽいよな。

 ”解放してる”っていう表現がしっくりと来る。


「うーん……」


 何かしっくりくる共通点が見つからないか考えても、何も思いつかない。

 まだ分かっていないことがある。それだけは確かだ。

 そのうちイルティールが口を滑らせてくれないかなあ。


「ご主人」


 なんか来た。


「フェ……じゃなくて。 ヨルム、どうしたの?」

「この家……トイレはどこだ?」

「風呂の隣のドアだよ」

「た、助かった……」


 もじもじしながらヨルムが帰っていった。

 ……うん。遅くまで起きててよかったな。

 僕が寝てたら、なにか惨事が発生していた可能性がある。



- - -



 翌日。僕はみんなを連れてダンジョン協会に向かった。

 ヨルムのスキルを見ておくためだ。


 結果はこちら。


【名前】ヨルム

【レベル】1

【スキル】秘爪


 特に驚くべきところもない。ムルンも最初からスキル一つ持ってたしな。

 僕たちのスキルにも、特に変なところはなかった。


「ん? 君、少し前までレベル17だったのに、もう25まで?」


 職員の人が僕の結果を二度見する。


「ど……どうやってるんだ? こんな短時間で? 聞いたことがないぞ?」

「まあ、色々とあって」

「色々と?」


 恐ろしい化け物を見ているみたいな顔で、職員が僕のことを見た。


「な、何を言っても無駄かもしれないがね……無茶はしちゃいけないからね」

「してませんよ」

「ここまでレベルを上げて、無茶をしていない……!?」


 大げさに驚いている。

 当然といえば当然だ。普通は何ヶ月もかけて1レベルやっと上がるぐらい。

 ただ、修羅場を潜って無茶をすれば速度は上がる。

 僕が相当滅茶苦茶な潜り方をやってるって勘違いされたな、これ。


「君、もしよければだが、ダンジョン奨学生プログラムに興味はないかい!?」

「奨学生?」

「名の通りだよ。優秀な探索者になるかもしれない人材へ補助金を支給する制度だ。今の所、ダンジョン学園以外から受給者が出たことはないけれど、君なら!」


 金の卵を見つけた気分にでもなってるのか、職員の人は大興奮だ。


「……奨学生になれば、ダンジョン学園に編入するにも有利ですかね?」

「勿論だ! 注目度も高まるだろうからね!」


 それを聞いて、僕はちょっと心を動かされた。

 海山高校はいい学校だけど、探索者へのサポート態勢とかは皆無だ。

 僕よりレベルの高い探索者もナギ一人だし。って、今はもう僕の方が上か。

 ダンジョン学園に行けるならそれに越した事はないし、イルティールを通さずまっとうな手段で編入できるんなら絶対にそっちのほうがいい。


「後で調べてみます」

「そうしてほしい! はいこれ、資料!」


 奨学生の資料を受け取ろうとした瞬間、誰かが横から資料をひったくった。


「悪いが、彼のことは私が個人的に面倒を見ている。奨学生はなしだ」


 イルティールが言う。


「……いきなり現れて何なんですか。僕、奨学生になってダンジョン学園に行きたいんですけど」

「そんなことをせずとも、私が裏から手を回してやる」

「裏から? 表から入るルートがあるのに裏口入学したくないんですけど」


 勝手だな、この人。


「正々堂々と、探索者としての素質を認められた上で学園に入りたいんですよ。元から、ちゃんと編入の試験を受けるつもりでしたし」


 僕は机の引き出しを勝手に開けて、中に入っていた資料を鞄に入れた。


「……苦労するのはお前だぞ」

「ええ。勝手に苦労させてもらいます」

「好きにするがいい……フェン、調子はどうだ? 上手くやれているか?」

「ん? 私はフェンではないぞ」

「は?」


 イルティールが素っ頓狂な声を漏らす。


「何を言っているんだ?」

「私はヨルムだ」

「どういうことだ???」


 彼女の顔がひきつっている。

 困り顔が見れてちょっとスカっとした。いいぞ、もっと困らせてやれ。


「そんなに家に帰りたくないのか? 散歩から帰りたくない犬じゃないんだから」

「フェンの方はたぶん家に戻っているぞ」

「いや、お前、さすがにそれは無理があると思わないか?」

「本当だ。増えた」

「は?????」


 イルティールはフリーズしている。


「……ただでさえ頭痛の種は沢山あるんだから、お前まで妙な事を言い出さないでくれ……いや、最初っから妙な事しかしていなかったな、お前は……まあ、いい……」


 首を振りながら帰っていった。

 ナイスだ。

 これからもイルティールに困った時はヨルムに相手してもらおっと。


 そんなこんなで、僕たちはダンジョン協会を後にした。


「さーて、ヨルムのレベル上げに行こうか」

「よろしく頼む」

「ぽこ」


 例によってダンジョン協会アプリ(誤報事件のせいで評価の星は2.8まで下がった)を使いダンジョンを検索する。

 狼系のボスで、低難度で、この周辺、っと。

 結果は一件。イタチ山ダンジョン。

 フェンをテイム(?)した場所だ。そうか、あそこもボスは狼系か。


 ……うーん。潜れる範囲で難易度を上げて狼系のボスがいるダンジョンを探しても、この一つしか見つからなかった。

 僕たちが攻略すると、あのダンジョンが力を失い消えてしまう可能性がある。

 イタチ山ダンジョンは人気スポットだ。消滅させると波風が立つかも。

 でも、〈解放者〉の検証は進めておきたい。


 まあ……ダンジョンがいきなり消えるぐらい、そう珍しいことでもない。

 僕の仕業だってバレるはずもないし。

 悪いけれど、僕たちの検証とヨルムのレベル上げを優先させてもらおう。

 行くか、イタチ山ダンジョン。

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