ダンジョンへ行こう
僕はダンジョン協会アプリ(星2.9)で近くのダンジョンを探した。
推奨レベル1~10でソートをかけて、評価の良さそうなところに絞る。
いい場所を見つけて、ムルンのレベルを上げよう。
適当なダンジョンを選び、口コミの掲示板を眺めてみた。
〈イタチ山ダンジョン口コミ掲示板〉
ダンジョンモグラ(男性/20代/レベル9)
草原が気持ちいい! 生息する獣系の魔物は数が多く、しかも魔物同士で争うので漁夫の利が取れます! 素人のレベル上げには最高でした!
ぶらりK@目指せダンジョン千個踏破!(男性/50代/レベル45/前衛職/@BurariK)
名の通り海と山に挟まれた神奈川県は海山市。
こちらの鼬山ダンジョンは、界隈で有名なレベリング向きの名ダンジョン。
日曜昼ともなると駐車場に列が出来てしまっていた。混雑した狩場は避けるのが経験豊富な探索者のマナー。ボク推奨レベルよりずっと上だしね(笑)
混雑を避けるためにラーメン屋へ。歩き通しで腹が減って仕方がないヨ~。
「あ、関係ない長文書きまくってるタイプの人だ……」
自分のブログでやってほしい。途中から読まずに次の口コミへ移る。
おーのー(その他)
レベル1からペットをレベリングする時にオススメ。
ただし土日は混雑しすぎて効率が落ちる。平日がいい。
入り口から真っ直ぐ行った泉に狼のボスがいるけど、大抵狩られてて居ない。
「そうそう、こういうのでいいんだ」
「ぽこ」
目的にもピッタリなので、僕はイタチ山ダンジョンへ向かった。
電車で一駅隣に向かい、そこからイタチ山公園行きのバスへ。
「ぽ~」
ムルンがバスの窓に張り付いて外を眺めている。かわいい。
昔は城だった公園にたどり着いた。ムルンを背負って山頂へ。
そこには地下へ通じる穴と改札っぽいダンジョンゲートがあった。
ピッ、とスマホをかざして中へ入る。
料金は二百円だった。人気だからか、低レベルのわりには高めの値段設定だ。
「おおっ!?」
「ぽこ~!?」
穴をくぐった瞬間、いきなり広大な草原が広がっていた。
おまけに天井がなく、青空が続いている。
いくらダンジョン内が異空間といっても、ここまで景色が違うのは珍しい。
中には数名の探索者がいて、それぞれ獣型の魔物を狙っていた。
僕もムルンを連れて、適当な獣の群れを狙う。
「あれを狙ってみよう。僕は後ろに控えて、危なくなったら助けるよ」
「ぽこ!」
ムルンは姿勢を低くして忍び寄り、あっさりと触手で群れを仕留めた。
つよい。
ダンジョン協会で調べたとき、彼女は〈触手攻撃〉のスキルを持ってたから、そのおかげでかなり威力があるみたいだ。
ムルンは順調に獣を狩って、あっという間にレベルを上げた。
いくら低レベルとはいえ速すぎる。
普通の探索者なら、一年で数レベルも上げれば十分って扱いなのに。
年齢と同じぐらいのレベルがあれば合格ライン、って言われるぐらいには、レベルを上げるのは大変なはずなんだけどな。
「自分のレベル以下なら経験値ボーナス、とか?」
そういう効果のスキルも存在してたはずだ。
テイム(少女)はレアスキルだから、いくつも効果があるのかも。
ムルンが楽しそうに魔物を倒していくのを眺めつつ、コンビニで買っておいたおにぎりを頬張った。
ここの魔物は僕よりレベルが低いから、僕が狩っても仕方がない。
……ただ、スキルの検証はできるんだよな。
獣の魔物を倒したら、やっぱり女の子になって仲間になるんだろうか?
僕が魔物を倒すたびに女の子が増えるようなら大変だ。
数人ならまだしも、数百人の女の子を連れて暮らすのは色々と無理すぎる。
僕はスマホを取り出した。ダンジョン内だけどWifiが繋がっている。
入り口のところに電波を飛ばす機械が置いてあった。
「さすが入場料金二百円だなあ」
というわけで、スマホでテイム系のスキルを調べてみる。
テイムが発生する条件を調べるためだ。
「どれどれ? 一般的に、テイム可能な魔物の数は一匹で……パッシブスキルの【テイムスロット+1】なんかを覚えることで枠が増える、と。なるほど」
いったんスキルを覚えれば、そのうち関係するスキルも習得できるだろう。
レベル10とか20とか、キリのいいところでスキルを覚える事が多い。
今の僕はレベル17だから、あと3レベル。
……普通にやったら年単位で時間が必要だ。
当分の間は、僕とムルンのふたり旅になるだろうな。
とにかく、これなら女の子が増えまくる事態にはならないはず。
僕は鉄棒を取り出し(本当は剣が獲物だけど、未成年だから部活じゃないと危険な武器を使う許可が貰えないせいだ)、構える。
「ムルン、一緒に行こう」
「ぽこ!」
近くの狼っぽい魔物に狙いを定め、一緒に近づいて奇襲する。
ムルンが攻撃した魔物へ追撃を入れ、確実に一匹づつ仕留めていった。
死体はすぐにダンジョンへ吸収されて消えていく。
特に魔物が女の子になって起き上がってきたりはしない。
「ギャウッ!」
おっと。新手の狼が襲いかかってきた。
まずは鉄棒で攻撃を受け止め、反撃を入れる。
鼻面にクリーンヒットした。レベル差もあり、一撃だ。
きゃんっ、と悲鳴をあげて倒れた狼が光り輝き、女の子になった。
「えっ」
灰色の髪と獣耳、それに尻尾。
また倒したモンスターが女の子になってしまった。
力を奪われたような脱力感がある。スキルが発動した証拠だろうか。
幸いなことに裸ではなく、ファンタジーっぽい服を着ている。
ムルンと違って、身長が高い。胸もでっかい。
この体型で裸だったら色々と大変だ。
「……強いな。お前の群れに加わるのも、やぶさかではない」
喋った。
マジかよ。
完全に、仲間になりたそうな目でこっち見てくるんだけど。
「えっと……あんまり数が増えても、世話しきれないっていうか……」
「残念だ」
彼女はがっくりと気を落とし、すたすた歩いてどこかに行った。
「え?」
いや、あの、僕がスキルでテイムしたはずでは……?
仲間にしなかったら消えるとかではなく、そのままどっか行っちゃったけど?
いいの? それ?
というか普通は一匹までしか魔物をテイムできないんじゃ……?
「ぽこ」
疑問符ばかりで頭がくらくらしている僕に、ムルンが寄り添ってくれた。
というか、さっきまで倒した魔物は女の子になってなかったのに。
何で最後の一匹だけ?
「ああ、そうか。最後の一匹だけ、ムルンと協力せずに一人で倒したもんな」
「ぽこ?」
「誰かと一緒に魔物を倒してるかぎり、スキルは発動しないのかも」
おそらく、〈テイム(少女)〉には発動条件がある。
女の子になるのは、僕が倒した魔物だけだ。
よかった。この条件がなければ、ダンジョンに潜るたび魔物の女の子が数十匹ほど増えかねない。
「……そうと分かれば、もっとムルンのレベルを上げてもらわなきゃ」
僕と同じダンジョンに潜るために、最低でもレベル10は欲しい。
他の魔物をテイムするにしても、相手は絞りたいし。
そういうわけで、ムルンにレベリングを再開させる。
僕は絶対に魔物へ攻撃しないように心がけた。
また野生の女の子が増えたら大変だ。
……野生の女の子ってなんだ? っていうか何なんだこの変なスキルは。
その後、ムルンはまたレベルが上がった。これでレベル5だ。
「今日はここまで。明日もまたレベリングしような、ムルン」
「ぽこ!」
- - -
その日の夜。イタチ山ダンジョンに、新たな口コミが書き込まれた。
ナギ(10代/レベル21/薙刀使い/海山高校ダンジョン部)
部活の仲間と一緒に行ったら、入り口のダンジョンゲートが壊されてた。
内側から蹴り破られたような感じ。
〈スタンピード〉でも起きて魔物が暴走したのかと思ったけど、違うみたい。
マナーの悪い探索者がいたのかな? 誰か怪しい人を見かけましたか?
へるべろす(その他/テイマー)
今日、獣耳の探索者? みたいな人がゲートの手前でうろうろしてましたよ。
そのまますれ違ったんですけど。髪は灰色でした。
ゲートの仕組みがよく分からなかった異世界人なのかな?
もし多摩梨ヨウがこれを見れば、一目で何が起きたのか把握しただろう。
だが、彼は二度とイタチ山ダンジョンの口コミを開かなかった。
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