大人向けお子様ランチ
「いただきます」
妹のマユが、私が作ったお子様ランチの前で手を合わせる。
ミニサイズの煮込みハンバーグ。
タコウインナー。
ナポリタンとオムライスのハーフ・アンド・ハーフ。
タルタルソースたっぷりエビフライ。
デザートのプリンだ。
「じゃあ、お姉ちゃんもいただきます」
私のプレートは、妹と同じメニューである。
山盛りのハンバーグ。
ジャンボフランクフルト。
オムライスとナポリタンは、それぞれ二人前ずつだ。
エビフライは五匹いる。
デザートは、三パック一〇〇円のお得用プリンを三セットだ。
業務用のスーパーで買ってきたものを、全部まとめて調理してみた。
「お姉ちゃん、相変わらずフードファイターだね」
「ファイターってほどでもないかな。あの人たちはもっと食べるからね」
私でも、街の大食い程度である。
「食べよう」
コーンスープで口を潤してから、エビフライをかじる。頭からバリバリと。
ああ、五匹いっぺんに食べると、また格別だ。
フランクフルトもいっとくか。
これは、うまい!
お祭りで売っているものを、家庭でも作れるなんて最高!
「お姉ちゃん、すごいね」
「うん。おいしい」
ナポリタンをおかずに、オムライスをいただく。
チキンライスとナポリタンの、酸味と甘味の合わさった味わいは、奇跡である。
さて、ハンバーグのできは……。
デミグラスソースで煮込んだハンバーグを、割ってみる。
トロットロに溶けたチーズが、肉汁とともに溢れ出す。
「中に、チーズが入ってるね」
「そう。うまいことつめてみたよ」
チーズハンバーグを、一口でパクッとする。
ああ。これを楽しむために、今日はお子様ランチを作ったようなものだ。
「おいしい」
「言葉が出ない」
このうまさは、形容するとウソになりそうである。
口に出すより、噛みしめるものなのだろう。
グレープフルーツのジュースを飲みながら、妹は腹を満たす。
私はジンソーダを煽りながら、お子様ランチを胃袋の中へ流し込んだ。
幸せすぎる。
「デザートもいただくね」
「どうぞー」
シメのプリンを、妹はパクパクと上品に食べている。
「これだけ市販だけど、ちょうどいいね」
「うんうん」
私はプリンを開けては、一息で吸い上げた。
いい。こういう安っぽい味こそ、お子様ランチの醍醐味だ。
こういうのが、ときどき無性に食べたくなる。
ジャンクの結晶だ。
食べ終わったマユが、まだ私をじっと見ている。
「どうしたの?」
「お姉ちゃんの食べてるところを見るの、いちばん楽しい」
「そう?」
「ケチャップ顔に付けまくってるのに、すっごい幸せそうなの」
私は慌てて、ナプキンで口を拭く。
「もう大人なのに、だらしない」
「そうじゃなきゃ、わたしのお姉ちゃんらしくないよ」
マユの言うとおりだな。
お子様ランチは、子どもが食べるからそう呼ばれるのではない。
童心に返してくれるからこそ、お子様ランチなのだ。
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