三つ編みの地味子がエロいのを、ウチだけが知っている。

 図書委員のシオリコは、クラスでも目立たない存在だ。

 いつも同じ一本三つ編みで、見た目は真面目ちゃんである。


 でもウチだけは、彼女がゲキヤバのエロエロだと知っていた。


「フミちゃーん、今日もお耳掃除の時間よぉ」


 クラスでは絶対に出さない猫なで声で、シオリコがウチの隣に座る。

 さも当然の権利であるかのように。こういうところは、マジでネコそのものだ。


「待ってないし。ヒマしてただけだし」


「じゃあ、どうして読みもしない小説をじっと見つめているのー? ギャルちゃんなら、スマホをいじっていたっていいでしょー?」


「いいじゃん、ここにいたって」


「私の仕事が終わるのを待っててくれているんでしょ? わかるよー」


 シオリコが、ウチの頭をなでてきた。

 

「はああっ? 自意識過剰が過ぎるし」


「はいはい。じゃあ。いつものように横になろうか」


「話、聞けし」


 だが、シオリコは強引に、ウチを膝枕するのだ。


「はいぞりぞりー」


 綿棒ではなく、耳かきを使うのが、シオリコのこだわりである。


「ふああああ」


 横に寝ながら、ウチはシオリコの長いスカートを握りしめた。


「ほらほら、リラックスしてくれないと、スカートがしわになっちゃう」


「ああうん。うぅん!」


 耳の裏をくすぐられると、ウチは図書館で出しちゃいけない声が出てしまう。


「ほああああ」


「はいできましたー。じゃあ、帰り支度しながら、フミも三つ編みにしよっか」


「う、うん」


 ウチが耳掃除をされるのは、髪を編んでもらうためだ。

 うかつに髪を上げて、耳の中が汚かったらサイアクだから。


「はい、おそろい」


 色はまったく違うが、シオリコはウチを素敵な一本三つ編みにしてくれた。


「いつもありがと。ウチがやると、どうしてもぐちゃぐちゃになるし」


「できなくていいよー。私が毎回編んであげるからー」


 帰り道、ウチらは誰にも見られないように手をつなぐ。

 このドキドキ感がたまらない。


「なんか、秘密を共有しているみたいで、楽しいねー」


「うん。昔に戻ったみたい」


 実を言うと、ウチは高校デビューだ。


 中学当時はウチも地味子で、シオリコと同じグループにいた。


 だが、高校に入ったら絶対あかぬけようと考えて、ギャルになったのである。


 けれど、シオリコとの友人関係は続けたくて、特定のグループには入っていない。


 のらりくらりとクラスメイトのお誘いをかわしつつ、今に至る。


「ホントはシオリコの方が、ギャルが似合うんだけど」


「えーっ。やだー。フミちゃん以外に、肌を晒したくないかなー」


 だよな。昔からこうである。

 シオリコが地味を通すのは、男子からエロい目で見られたくないためだ。


「脱いだらすごいの、うらやましいよ」


「フミちゃんには、フミちゃんのよさがあるよー」

 

「そうかな?」


「うん。どんな格好でも似合うし。私がそんな感じになると、風俗っぽくなるんだよー」


「それな」


 二人で笑い合う。


「フミちゃん。今日、お泊まりする?」


「いいの? やった」


「母さんが、ナポリタン作ってあげるって。その間、お風呂に入ろう」


「うん入る入る」


「三つ編み解いてね」


「う、うへへ」


 シオリコの三つ編みを解くのが、ウチの特権だ。

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