令和の時代に、昭和ギャル

「あんたの家、年季が入ってるわね」


イチゴの家にお邪魔すると、昭和感満載のポットが出迎えてくれた。

 老舗の和菓子屋となると、生活スペースはこんな感じか。

 

「ばーちゃんのころから、使ってるんだぁ」


 家に帰ってそうそう、イチカは仏壇に手を合わせる。


 見た目は令和ギャルでスマホも持っているのに、イチカの家は昭和にタイムスリップしたみたいだ。

 

「はい。カルピスといちご大福しかないけど」


 おやつまで、昭和全開である。


「冷凍みかんとか出てきそう」


「出そうか?」


「あるのね……いいわ。これおいしいから」


「でしょ? たまに食いたくなるっしょ?」


 イチカのいうとおりだ。

 たまにこういった、オーソドックスなおやつが欲しくなる。


「ファミコンやる?」


 ふすまを開けて、イチカがおもちゃ箱からカセットを掴む。

 

「いいわよ。この時代にミニじゃない方のファミコンって……」


「ミニもいいけど、ばーちゃんの遺品があるからいいかなーて」

 

   

 イチカがファミコンのカセットをふーふーしている。


「それ、やっちゃダメってネットで知ったわよ?」


 唾液が端子について、寿命が短くなるとか。


「そうなん? ウチじゃデフォルトだったわ」


 イチカが、『バルーンファイト』を差す。


 テレビだけが有機ELなせいで、画面が歪になっていた。


「ああ、これは中毒死するゲームだわ」


「わかってんじゃん。やろーぜ」


 イチカが大福をつまようじで食べながら、キャラを動かす。


「ちょっと、私、素手なんだけど?」


 ちり紙で手を拭いて、私もコントローラーを握る。

 

「ああ、すまん! はいつまようじ」


 自分のつかったようじを、私に差し出してきた。


「あんたの使ったのなんかいらないわよ! 新しいのない?」


「待って待って」

 

 テレビ台を横切るから、イチカがめちゃ画面の邪魔になる。


「どきなさいって」


「ちょ、注文多すぎるって」

 

 

「この和菓子屋、継ぐの?」


「どうしよう?」

 

「継げばいいじゃないの。あなたに似合ってるわ」


「でもマキ、アンタさ、遠くの大学行くっしょ?」


「行かないわよ」


「え?」


 バルーンを背負ったイチカのキャラが落下し、魚に食われた。

 

「ここのいちご大福、おいしいもの」

 


 実際、新型感染症の影響で、遠くの学校に行くメリットはない。

 授業自体は、リモートで受ければいい。友だちも、それで作れる。



「なにより、私はこの和菓子屋さんの近くにある大学に入ったから。これからもよろしくね」


 また、この味を引き継いでくれるとうれしい。

 

「わーいマキ大好き」


 調子に乗って、イチカが抱きつく。


「待ちなさいって、死ぬから!」


 私たちは二人のキャラが、仲良く魚に食われた。

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