ホウキと杖とステッキ

「ねえニャミ、前から気になっていたんだけどさ」


 ルシータが、わたしに質問をしてきた。

 

「うん?」


「なんでホウキがあるのに、杖を携帯してんの?」


「それは、ほら、ホウキは移動手段だし」


 わたしは普段、ホウキにまたがって魔法の杖を背中に担いでいる。

 担ぐといっても、魔法で浮かせているんだけど。


「ニャミの背中セクシー」


「やめなさいって」


 わたしの魔法式ローブはバックレスドレスなので、背中がぱっくり開いている。


 対するルシータは、オーソドックスなすっぽり型ローブである。


 けどわたしの場合、杖を携帯する魔法を背中に施しているために、背中を開く必要があるから着ているだけ。

 

「でもさ、杖代わりになるじゃん」

 

「あんたね……」


 ホウキを杖代わりに使うと、降りなければならない。

 魔女の常識だ。


「いや、乗りながらでも魔法は使えるじゃん。ほらほら」


 ルシータがスケボーのようにホウキに乗りながら、ファイアーボールをびゅぱーびゅぱーと放つ。


「あああ、もう。木に燃え移ったらどうすんのよ?」


 わたしは杖を振って、氷魔法を降らせた。

 ルシータの放ったファイアーボールを消す。


「ステッキくらい、携帯なさいよ。コントロールがハチャメチャじゃないの」


「やっだよ! ガキじゃん!」


「ガキ以下なのよ。あんたの振る舞いは」


「ちぇー」



 ルシータがホホを膨らませた。


 たしかに、ステッキは子ども魔法使い向けの武器である。

 魔法のコントロールを覚えるための道具だ。


 ルシータは天才すぎて、真っ先にホウキで魔法を使うことを覚えてしまった。


 真面目に取り組んでさえいれば、今頃は魔法学校でもトップだっただろう。


 そうなったらわたしは、トップの座から落ちていたわけだけど。


 学園きっての落ちこぼれは、学業なんてそっちのけで、魔法とお友だちのように振る舞う。


「よく悪堕ちしないわね、あんた」


 この手の落ちこぼれは、たいてい魔法学校のしきたりや謎ルールに逆らって、不良になる。

 こいつは十分不良だが、魔法を悪の道に使おうとは考えなかった。


「だって、それもつまんなくない? 規則は嫌いだけどさ、それはそれで大切なわけじゃん」


「ええ、そうね」


「それを、大事なやつが覚えているわけじゃん」


「う、うん」


「あたしは、ニャミが大事なわけじゃん」


「えっ」


 ネコ耳が、熱くなってきた。

 

「だからさ、ステッキ選んでくれる?」



「え、ええ。いいわよ」


「やったね。ステッキゲットー」


「いやプレゼントしないから! ごまかされるところだったわ!」


「ちぇー。やっぱ学園トップは騙せねーかー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る