金魚鉢タピオカコーヒーフロート
私はてっきり、いつもの映え目的だと思っていた。
「あんたこれホントに飲めるの?」
金魚鉢に入ったタピオカコーヒーフロートが、私たちの席に鎮座している。
友人のカナエは、これを飲みきってみせるという。
しかも、手伝いなしで。
「へーきへーき、リサ。これ、三〇分以内に飲んだらタダっていうじゃん。任せなよ」
カナエは、手を合わせていただきますをする。
私のドリンクも、タピオカコーヒーフロートである。
だが、普通サイズだ。
ヘルプを、カナエは要求してこない。
別にこのメニューは、「手伝ったら、チャレンジ失敗扱い」になるわけじゃない。
でも、プライドが許さないのだとか。
「さてお味は、と……うん、苦いね」
コーヒーフロートというだけあって、ノンシュガーだ。
糖分は、フロート上のアイスクリームで取るのだろう。
わたしのフロートには、シングルのアイスが乗っている。
それを崩して、わたしはコーヒーに甘みを補充した。
カナエのアイスは、ソフトクリームが逆さまに刺さっている。
「ふえー。ロンギヌスの槍みたいだね」
何を断罪するつもりなのだろう? それとも、アニメの解釈かな?
カップアイスに至っては、三つも乗せてある。さらに、どれも味が違う。
とんがり帽子になったソフトのコーンに、カナエはソフトクリームを乗せてかじる。
「うんうん。これでタピオカを吸って。うん! これこれ」
コーンのサクサクと、タピオカのモチモチ食感を、カナエは同時に楽しんでいた。
「あんた、大食いだっけ?」
「言ってなかった? 動画チャンネルとかはなくて、完全趣味なんだけど」
話しながら、カナエはもう半分ほど攻略している。
チャンネルを作ろうとも考えたが、学生のうちは控えているらしい。
プロ大食いの大半は「チャレンジしても食事代を払う」そうで、そこまでの余裕はまだできないからだとか。
まだ私たちも、JKだし。
「それにね、どちらかというとフードロス撲滅でやってるところがあるから」
「そうなん?」
「バズり狙いで、頼んだものを食べないで置いていく人とかいるでしょ? そういうの許せなくて」
だからカナエは、撮影したものは全部食べているという。
「ふう」
少し、ペースが落ちてきた。
といっても、一〇分も経っていない。
「飛ばしすぎてタピオカが沈殿してきた」
「手伝おうか?」
「これはね、自分との戦いなんだ。だから、手伝ったりはしなくていいから」
カナエはカップアイスを、三つ全て一口で平らげた。
なのに、楽しそう。
底が見えてきた。
苦しそうどころか、カナエはまだ余裕を見せている。
「おいしい」と、まだ旨味を楽しめていた。
最後のひと粒が、カナエの口へと吸い込まれていく。
「ごちそうさまでした」
見事カナエは、タピオカコーヒーフロートを跡形もなく攻略した。
「マジで、チャンネルいけるよ。あんたの好きなバズリも狙えるよ」
「しない。これさ、二人だけの秘密にする」
「そうなの?」
「あんたにだけ、知っておいてほしかったんだよね」
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