彼シャツって本来、背丈が小さい方が着るのよ?

「ちょっとミウ、彼シャツが小さい~」


 家に泊まりに来たチナが、あたしのYシャツを着ている。

 しかし、小さすぎてヘソが丸出しになっていた。

 

 七分袖になってるわ、ネコの絵が横にビローンとなってしまって豚みたいになっている。

 ネコのプリント、気に入っていたのに。

 

「あのね、あたしはあんたの彼氏じゃないんだけど?」


 あたしは150センチでAカップ。

 チナはFカップで180センチもある。


「だって、好きな人の家に上がったら、彼シャツ着たいじゃ~ん」


「着たいじゃーんじゃないっ。ほら、ビローンって引っ張るなよ伸びるだろうが!」


 第一、いつ恋人になったよ?


「なんか、アメリカのJKチアリーダーみたいになっちゃってんじゃん」

 

 もう夜遅いというのに、チナはあたしの引き出しを開けてホットパンツの下からミニスカを履き出した。

 

「ひとの服で遊ぶなっての」


「えっらいノリ悪いじゃん今日のミウ。受験ノイローゼか?」


「チナノイローゼだ」


「え~。わたしのせい?」


 ただでさえ、チナはあたしにコンプレックスを植え付ける。

 特に胸だ。

 あたしは何を飲んでも、ここまで成長しなかったのに。


 チナのおばさんは若い頃こそチナそっくりの爆乳ヤンママだったが、今はアザラシにそっくりだ。


 やはり遺伝だろうか。


「じゃあさ、ミウがわたしの彼シャツ着る?」


「どうしてそうなるの?」


「お風呂じゃん。入らないの?」


「入るけど!」


 チナをスルーして、あたしは入浴する。



「ミウ、着替え置いておくから」


「はーい」


 あいつの相手は、疲れるなあ。


 夕飯どうしよう。ピザでも頼むか。

 出張中の親からは、潤沢に留守番用のお金を預かっている。

 まあ、あたしにムダ遣いさせないように、チナを泊まらせいる周到ぶりだが。

 服のとっかえひっかえするのが、そんなにムダかなあ?


「あ、またあんた!」


「えへへ。この黒いYシャツ、かわいいね」


「やーんちょっとお。一番お気に入りだったのに!」


 これとチェックのスカートを合わせて、地雷系ファッションをやってみたくなったのだ。

 それが裏目に出るとは。

 こいつが地雷になってしまった。爆乳地雷である。

 

「でもさ、このハート型の穴ってなんに使うの?」


 胸の谷間に空いた穴に、チナが指を入れる。

 

「それはプリントだと思ったの! 穴が開いているなんて知らなかったし!」


 穴がオープンになっているせいで、谷間がより強調された。

 場所によっては、チナのファッションは出入り禁止になりそう。


「マジ破れそうだから脱いで」


「わかった……え、ちょっとヤバ。脱げない」


「なにやってんのよ」

 

「マジでヤバイ。脱がせて」


「もー世話の焼ける」


 せーので一息に脱がせてみたが、結局シャツは破れてしまった。


「ゴメン、ミウ。調子に乗りすぎた」


「いいって。悔しいけどあんたの方が似合ってた」


「ありがと。お詫びに、わたしのシャツをあげるね」


 あたしは、チナにムリヤリ彼シャツを着させられる。


「おお、チナの言うとおりじゃんね」


 たしかに、彼シャツは小型な少女が着るものだと、自分で身をもって知った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る