我が家の玄関前で「カギ失くしちゃった」と体育座りしている。見知らぬ少女が。

「えへへ。ウチのカギ失くしちゃった」


「いや誰テメエ?」


 私のアパートのドアに、見知らぬ少女が体育座りでもたれている。


「あのさ、邪魔なんだけど」


「え、あたしのコト知らない?」


 こちらの言葉を無視して、少女は私に語りかけてくる。

 

「知らないよ」


「うそだヨーコ姉さん! オシメかえてくれたよね!?」


「ああ、あんたナナミか!」



 妹の子どもだった。

 彼女の持っているスマホで、妹と一緒に写っている画像も確認した。

 姪がうちになんの用事だろう?



「妹……お母さんに連絡しておきな」


 少女を家に上げる。


「わーい。ヨーコ姉さんのお部屋って、こんな感じなんだー」


「別に珍しくもないよ。女の一人暮らしなんて」


「でも、フィギュアばっかりだね」


「それが仕事だから」


 食玩のフィギュアを作って売るのが、私の仕事だ。


「でも、これってすごくない? 気に入っちゃった」


 少女が、フィギュアに指をさす。


「ああ、それは、気合い入れて作ったっけ」

 

 精巧に作ったなと思うのが、「体育座りするブルマ姿の少女」である。

 これは、自分でもよくできていると思う。

 しかし、これは趣味の範疇である。


 こんなセンシティブなフィギュアを、会社が作らせてくれるかどうか。

 食玩コレクターが求めているかなども、怪しかった。


「姉さんは、いい人いないの?」


「いない。別にほしいとも思わないし」


 私は妹と違って、家庭に関心がない。

 仕事だけしていたいタイプである。

 成果とか高い報酬とかがほしいというより、仕事の場にいたいのだ。

 働いているときだけ、生きている実感が湧く。

 元々クリエイター業になりたかったし、そのせいで親とモメて家を出た。

 

 あのときは、妹に悪いことをした。

 まだナナミも小さくて、手がかかるってのに。


「あたしでよければ、モデルになるよー」

 

「いいよ……ってなぜ脱ぐ!?」

 


「だって、ボディのラインとか必要でしょー?」

 

 こいつ、何を考えているんだ?


「姉さーん。お邪魔ー」


 お、妹が来たか。こっそりラインで呼び出しておいてよかった。

 


「あっ。ミユ! やっぱり姉さんのところにいた! 探したんだから!」


 私を「姉さん」呼びした少女が上がり込み、ナナミにポカポカとネコぱんちを食らわせる。


「え、何? どういうこと?」

 

 目の前のコイツは、ナナミではないのか?


「姉さん、そいつ偽物だよ! アタシが本物のナナミ!」


 妹と一緒に来た少女が。自分を指差す。


「そうなん?」


「ソイツはミユっていう、クレイジーサイコレズ! なんかね、姉さんが好きになっちゃってアタシになりすましていたの!」

 

 しかし、当のミユは「違うもん」と叫ぶ。


「ヨーコ姉さんのフィギュア作りに感銘を受けて、弟子にしてほしいって思ったの! でもお近づきの方法がわからなくて」


 本物の姪に頼もうにも、将来に関わるから断られると思ったのだ。笑われるのも嫌だった。


「わかる」


「姉さん!? こいつガチでヤバイよ!」


「ヤバくてもいい。むしろヤバさがないと夢は死ぬ」


 私がミユをかばうと、姪もミユもキョトンとなる。

 

「え、じゃあ」


「モデルには、私がなってやる。あんたが作ってみろ、ミユ」

 

 私は、体育座りした。


 だが、ミユは作業にかかろうとしない。


「どうした?」


「お姉さん、なんで脱がないの?」


「脱ぐか!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る