よれたセーターをもらう。はかどる。

「ミノリ、これあげる」


 シェアハウス最終日、キョウカ先輩から、よれたセーターをもらった。

 洗った後なので、キョウカ先輩の匂いはしない。


「顔をうずめないの」


「だって、先輩の残り香、とっておきたいじゃないですかーっ!」

 


 先輩は、もう結婚してしまう。


 お相手は素敵な人だけど、私はもうちょっと先輩と馴れ合いたかった。



「ヘンタイすぎる。あんたストーカーになんないでよ」


「なりません。遠くから見つめるだけで幸せなので」


「ドヘンタイじゃん」


「だって先輩、五年ですよ。私たちが同居したの」


 高校から知り合って、短大に合格したときから同居を始めた。


 会社までは同じとはいかなかったが、私たちはそれなりに仲がよかったように思う。


 いつの間にか先輩は、人の奥さんになっていたけど。


 家に連れてこられた彼氏さんは、ぎょっとしていた。

 私の顔、怖かっただろうな。


「あんたも、いい人見つけなさい」


「うーん」


 いい人は、出ていってしまうのだが。




 同居人が去って、一人になった。

 

 相棒のぬいぐるみに、セーターを着せる。


 いいや。しっくりこない。

 

 けっこう使い込んでいるが、柄もいいし部屋着にはもってこいである。

 思っていたより、でかいな。


 そっか。先輩、胸大きかったもんな。だからよれたんだ。

 胸だけがだる~んとしたセーターを着ながら、私はフニャフニャになる。

 

 何もやる気がしない。


 一人ってこんなにもすることがなかっただろうか?

 雑談をする相手もいない。

「リモートでいつでもどうぞ」って、先輩は言ってくれた。


 けど、なんか甘えてる気がするんだよなあ。


 と思っていたら、リモートが飛んできた。

 半年ぶりかな。


「ちょっといい!?」


 久しぶりに見た先輩は、珍しく酔っている。

 昼間から酒かよ。随分と荒れているな。


 酔いからか涙なのか、先輩のしゃっくりが止まらない。


 相談内容は、すごくすごーく、しょーもない痴話ゲンカだった。


「時間が解決してくれますよー」


「ホントに?」


「そうですよ。ほつれたセーターじゃないんですから、夫婦って」


「うまいこというね、ミノリ」


「私だって、キョウカ先輩がいない間に色々あったので」



 ウソだ。色々なんてない。


 こんな感じで、私はずっと空っぽのままで、孤独に生きて行くんだろうな。


 一人でそう思った。

 

 胸の大きい子にでも、このセーターをあげようか?


 そう考えていた次の出勤日、中途採用の社員を教育してほしいと言われた。


 胸が大きい。


 そんな俗っぽい理由から、私はその子を家に呼んだ。


 セーターをあげて、先輩を忘れようとした。


 だが、新しい出会いで先輩を忘れそうである。

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