修学旅行の温泉なのに、二人きり
今日はわたしたちの学年で、修学旅行だ。
なのに、ユナったらわたしとだけ入りたいとか。
胸が小さいのがコンプレックスなんだって。
「そんな気にすることなくない?」
頭にタオルを載せながら、わたしはユナと岩風呂でふたりきりだ。
「だって、他の子とかちゃんとブラ付けてるじゃん」
「あんただって付けてるでしょうか」
「スポブラだもん」
「あのねえ。わたしだってスポブラなんですけどー」
湯船に鼻から下を沈める。
「どーせ、巨乳のミラにはわかんないんだいっ」
「すねんなよユナ。かっこ悪い。クラスの子にバカにされっぞ」
「されてるもんっ」
「まあまあ。あんたはクラスを支えてんだから、慕われてるって」
「でも、みんなして私を子ども扱いするよ」
たしかに、そういう一面はあるかも。
今日だって『バスに酔ったの? 窓際行く?』とか言われていたな。
「酔ってませんっての」
「優しさじゃんか。バカになんてしてねーっての。疑心暗鬼すぎ」
「あんたはいいじゃーん。背が高くてかっこよくてさー」
「でも怖がられてるからなー」
だれも、わたしに声をかけてこようとしない。男子だって。
「でもさ、相手にされないのも考えものだよ? 慕われてるくらいがちょうどいいって」
「うーん。個人的には、もっと頼もしくありたいかなー」
それは、ユナの性格では難しいかもな。
「美楽(ミラ)せんせー、結和(ゆな)せんせー、まだー? 宴会始まってますよー」
オバサン声で、教頭が呼びに来た。
「はーい今行きまーす」
わたしたちは、温泉を出た。
「あー、なんか。肩こり治ったっぽい。ビバ温泉」
ユナが肩を回す。
もう三〇手前だもんな。気にするよね、身体のこととか。
「毎回行きたいよね、温泉」
「ねえ。バスボムでは味わえない、独特の感覚があるよ」
「こればっかりはさ、毎年入っても飽きない」
間違いない。打たせ湯とかサウナとか、家庭ではまず味わえないし。
「で、温泉上がりのコーヒー牛乳だけは、外せない!」
「同感!」
瓶で乾杯をして、わたしたちは一気にコーヒー牛乳を煽る。
「あー、この甘ったるい液体がノドを通る感触、最高だね」
ゲップしそうな勢いで、ユナが一息で言い切る。
「さて、ビールビール」
宴会で出されるのは、ビールと刺し身だ。
他には、職員たちが持ち寄った乾きものであろう。
「コーヒー飲んだ後に、もうビール?」
「ビールは別腹だしー」
コイツ、酒飲むときは豹変するんだよな。
いつものことだが。
「職員のいる席だからね。キス魔はダメだよ」
もしそうなったら、また温泉に放り込む。
「しません。アンタ以外には」
やっぱり放り込もう。
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