ゴスロリのスパダリ

 ホスト風に決めたツバキが、女性カメラマンを壁ドンしている。


「今夜は、帰さないからな」


 女性らしくない低い声で、ツバキが女性につぶやく。

攻め寄られた女性カメラマンが、シャッターを押しまくった。

 

 コスプレ会場で、相変わらずツバキは女性からキャーキャー言われている。

 やっぱスパダリ系女子は受けがいいらしい。


 ツバキは学生の時から背が高く、女子校で憧れの的だった。

 卒業して社会人になった後も、女性から人気が高かった。


 一方、私は一応ゴスロリファッションである。

 ある一定の客層は付いていた。

 今では「地雷系」と忌避されているらしいが、「その怪しさこそ愛でたい」って層はいるようだ。

 私、ガチの地雷系なんだけどなあ。


「こっちに目線ください」

「はあ、はいはい」


 カメラマンさんには申し訳ないが、あっちを写してあげたほうが絵になると思うんだよ。

 まったくツバキは、天然のジゴロだ。

 

 そのせいで、誤解されやすい。

 今日も、勘違いした厄介女性が湧く。

 あんな風に。


「ツバキくん、私と帰るの!」


 順番待ちの列を突っ切り、危ない目をした女が、ツバキの手首をつかむ。

 

「あの、困ります」


 ほら、ツバキが素になっちゃったじゃん。

 さっきまでのスパダリ系女子の雰囲気など消し飛んだ。


「ああーん、ミノリー」


 呼ばれたので、私はため息を付きつつ撮影現場を離れる。

 

「すいません。呼ばれたので行きますね」


 ズカズカとブーツを鳴らし、ツバキと女のもとへ。



「ツバキを離せ」

「何よアンタ!」


 相手の女性が、殴ってきた。

 数発受けた後、私も反撃する。


 グーパンで女の手を叩き落とし、ツバキから引き剥がした。


「マジなんなんの!? あたしとツバキくんの仲を引き裂こうっての!?」


 まだ女が何か言おうとしたので、私は平手打ちを繰り出す。

 

 パァン! と乾いた音が、撮影会場に鳴り響く。

 

「被写体に触れんな」

「何すんのよ! 警察呼ぶわよ?」


 ヒステリックに、女が叫ぶ。

 

 私は、警察手帳を見せる。


 女が青ざめていった。

 

「お前だろ。あちこちの撮影現場で迷惑かけてるって女」


 逃げようとした女に、足を引っ掛けて転倒させる。

 女の髪をつかんで、手錠をかけた。


「ツバキ、タイムは?」

「一六時〇二分。条例違反及び公務執行妨害で、確保」

「OK。通報した?」

「二分後に到着するって」

「よし」


 時間通りに到着したパトカーに、女を引き渡す。


 女はまだ悪態をついたが、髪をつかんでもう一度ビンタしたらおとなしくなった。


「大丈夫、ツバキ」

「うわーん、怖かったぁ」


 私に抱きつきながら、ツバキは泣き出してしまう。

 せっかくのイケメンファッションが台無しだ。


「まったく、私がいないとダメなんだから」

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