麦わら帽子の王子様!

 砂浜で遊んでいると、麦わら帽子がわたしの前に飛んできた。


「おーい、ゴメンゴメン!」


 ショートヘアの少女が、わたしの前まで走ってくる。

 白いワンピースを着ているが、背が高くて顔立ちも中性的だ。


「ありがとう! ゴメンね、拾ってもらって」


 麦わら帽子をかぶって、少女がはにかむ。


「似合わないだろう? 顔を隠すためにかぶっているんだ」


 王子様って印象だったけど、こう見るとやっぱり美人と形容したほうが合っているかも?


「でも、ごめんなさい。先っちょが、濡れちゃってる」


 さっきまで海で泳いでいたから、全身が海水と砂でベトベトだ。


 そんな手で触っちゃったから、せっかくの麦わらが汚れている。


「いいんだよ。ちょっと汚れるくらいなら。海に落ちちゃうよりずっとマシ」


 少女がハンカチで、汚れた部分を拭いた。


 白ワンピが、風になびく。


「ホントに似合わないだろ? 母の趣味でさ。私はTシャツとGパンでいいんだけど、『女の子なんだから!』って」

「それはキビシイね」

「マジでそう思うよ。ねえ、せっかくだし遊ぼうよ」


 わたしはアサキと名乗る。

 少女はケイといった。


 麦わらを砂浜に置いて、ワンピを脱ぐ。


「えへへ。見てよこれ」

 

 水着までチョイスされて、フリル付きを選ばされたという。

 もっとスポーティなタイプもあったのに。

 

「でも、色合いはピッタリかも」


 クールなケイに、このフリル付きタンキニは似合わない。

 とはいえ、彩色自体は悪くなかった。見る目はあると言えばある。

 将来美人になるって考えての、選択なのだろう。


 本人に女性的でありたいって自覚があれば、の話だが。


「おせじはいいよ。遊ぼうか」


 わたしは少女と、海へ入っていく。


 泳ぎは向こうのほうが上で、ビーチバレーはこちらが上だった。


「アサキ、すごいね。こっちのボールをポンポン取るんだもん」

「でも、限界」


 海の家まで、戻ることに。


「帽子は……あっ」


 風に流されて、また帽子が逃げていく。

 

 石で重しをしていたのだが、観光客が多いから知らない間に蹴られちゃったみたい。



「よいしょーっ」


 わたしはダッシュして、帽子を掴んだ。


「ありがとう。二度も助けられたよ」

「でも、今度は」


 帽子はビリビリになっていた。


「潮にやられちゃってたのかもな。母の代から使っていたもん。でもさ、見てよ」


 ぼろぼろになった帽子を、ケイはかぶって見せる。


「これさ、すっごいワイルドじゃない?」

「ケイ、王子様みたい」

「そうかな? でもさ」


 ケイは、わたしの耳元まで顔を近づけた。


「私の王子様は、アサキだよ」

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