このウサギリンゴ、あんたが切ったの?
「あのさ、超かわいいんだけど」
リサが、お弁当と広げたわたしに聞いてきた。
「わたしが?」
「リンゴがっ! お前は全っ然、かわいくないよ!」
ああ、デザートのうさぎりんごね?
「これ、あんたが切ったの? 弁当も自前だよね?」
このやろう、リンゴに爪楊枝刺してわたしより先に食いやがった。
許可していないのに。
「そうだよ。わたしは、なんでもできるんだから」
「そういうところだよ。かわいくないのは」
なんとでも言え。
どのみち抜群の家事スキルで、お嫁さん一番乗りはわたしなのだからな。
わっはっはー。
「……シオリ。お前、マジでそういう性格直したほうがいいよ」
「男子にわかりっこないって。顔だもん顔」
「その顔が一番ダメなんだからなお前」
「言ったな。お前も似たようなもんじゃんかー」
プクーとわたしはむくれた。
「それにしても、よくできてやがる。天は人に二物を与えないというが、お前は顔を犠牲にして家事スキルを手に入れたか」
「まだ言うかリサは」
わたしはおかずのタコウインナーをつまんで、口へ。
「あたしもさ、リンゴを皮一本にして剥くってチャレンジしたけど、ムリ」
「あれは身を少し残してきるから、もったいないんだ」
俵型の握り飯を、無限ピーマンとともに頬張った。
「うう。やっぱそうなのか」
「しかもウチは、わたし以外全員が、皮剥かないで食う」
皮が一番うまいのだと。
「たしかに言えてる。あたしも皮ごと食べるや」
わたしからぶんどったウサミミリンゴも、皮からむしゃぶりついている。
「もう一個」
「ダメダメ。もうやらん」
リサが向けた爪楊枝から、わたしは弁当を死守した。
「えーケチ」
「ケチってなんだよ! 最後の一つじゃねえか」
わたしだって楽しみにしていたのだ。
「家でいくらでも切れるじゃん」
「作るの、けっこう大変なんだからな!」
「わかったよ。じゃあ今日遊びに行くから、剥いて」
そういって、リサは自分の分の昼食を取り出す。
「ほらあ、お前いっつも昼はリンゴだけじゃねえか!」
こいつはいつも、昼飯はリンゴ一個なのである。
ダイエットというわけではない。実家の廃棄品だ。
彼女の家は、八百屋をしている。
「丸かじりとうさちゃんリンゴって、全然食感が違うんだって!」
「当たり前だ!」
「ひとの手がかかっているってだけで、抜群にうまくなるんだから」
リサはそういうと、リンゴをシャクっとかじった。
「うん、同じリンゴなのに、やっぱり違う味がする」
「どうかな?」
「うさちゃんは、シオリの味がする」
「超キモイんだけど」
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