人の握ったおにぎり、食べられる? ーpixivお題「おにぎり」からー
「ねえヨーコ、あなたは人の作ったおにぎりって、口にできる?」
マナカが、あたしに聞いてくる。
彼女はお弁当ではなく、コンビニのツナマヨにぎりだ。
「食べる。でもお寿司のほうが好きかな?」
あたしは、オカンお手製の俵型おにぎりに味のりを巻く。
パリパリ食べながら、質問に答えた。
やっぱり海苔は巻きたてが一番うまい。
「あたしムリ。回転寿司も手作りだと食べられない」
「あんた、回転寿司でもツナマヨだもんね」
「おいしいじゃん。ツナ大好き」
「あたしも」
「でも、マグロは食えないと」
「生はね。でもおにぎりならなんでも食べるよー」
あたしは、生魚が食べられない。
対してマナカは、手作り全般が食べられないのだ。
「そんなに潔癖だったっけ、マナカって。いくら感染症が怖いからってひどない?」
「昔からムリだよ。誰が触ったかわかんないんだもん」
「親でもムリなん?」
「うん。誰を触ったかわかんないからさ」
こいつの家、難しんだよなぁ。
親が水商売だから。
マナカ自身、お弁当を要求しない理由は「気を遣わないでほしい」と勝手に思いこんでいた。
まさか、親を不潔だと思っていたとは。
「うちのオカンのお弁当も、ムリ?」
「だね。というか、あんたのオカンさんに申し訳ない」
あたしもオカンも、平気なんだけどね。
「第一、こども食堂も昔からムリでさ。パンとかの方がありがたいんだよ。工業製品をくれたほうが」
過去に一度、マナカはこども食堂にお世話になったらしい。
だが、手作り感満載で利用をやめたという。
これは、重症だ。
「お弁当、つくってきてあげよっか?」
あたしだって、一応料理はできる。
家では、あたしが夕飯を作っているのだ。
朝はオカンが用意し、あたしは夕飯を担当する。
時々、父がキャンプでメシを振る舞う。
「何を食べるの? キャンプで」
「味噌焼きおにぎり。オヤジが握って、あたしが作った味噌を塗って、焼くの」
「絶対、外さないやつだ」
たしかに、これでみんな喜ぶ。
二時間の渋滞もチャラになるくらい、ブッ飛んでしまうのだ。
「ヨーコんちはいいなぁ。家族の仲がよくて」
「よせ。マナカが言うとマジでシャレにならん」
「でも本当にいいよ。話を聞いてるだけで癒される」
これは、「本心では望んでいない」やつだ。
きっと彼女はわかっている。
自分が何も手に入れられないことを。
手に入れたくても、「それは必ず壊れてしまうんだ」と肌で感じているようだ。
そんなことはないんだと教えてあげられるのは、今はあたしだけだろう。
「ひとまず、はい」
お箸でおにぎりをつまみ、マナカの口へと持っていった。
「いいよ。自分で食べなよ」
「いいから」
あたしが催促すると、マナカはおにぎりを食べ始める。
おいしいかどうかは聞かない。
感想まで要求すると、彼女は逃げてしまう。
誰かの手が加わった料理とは、そんなに罪悪感をもたなくていいんだと感じてもらわねば。
「別に手作りの方が愛情こもっているとか、言いたいわけじゃないけどさ。うまいものはうまいでいいじゃん」
「うん」
工業製品のほうが、たしかにうまかろう。それはあたしでもわかる。
かといって、手作りを食べてはいけないんだと、引け目を感じる必要はない。
食って楽しいなら、どちらも同じだ。
「キャンプ行く?」
「うん。あのさ、味噌おにぎりの作り方、教えてくれる?」
断る理由なんてない。
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