ファーストペンギン ―pixivお題『ペンギン』より―

「あのお! イチノセさん!」


 女子グループの中から、初めて声をかけてくれたのはユキさんだった。

 はつらつとした女の子で、誰とでも仲良くなれるのがうらやましい。

 制服のスカートが短すぎて、少し風紀が乱れているけれど。


 生徒会長である私は、周りから浮いている。

「あたし、木元ユキ。一緒にお昼食べない?」

 孤高を気取るでもないが、お弁当などはいつも一人だった。


 そんな私に、彼女は声をかけてくれたのである。


 おかげで、私は女子グループに混ぜてもらい、仲良くさせてもらっている。


「イチノセさんも、どう?」

「ありがとう」


 修学旅行の帰り、新幹線の中で、私は向かいのユキさんからポテチをもらう。


 ああ、ポテチ。こういうときでしか食べない。

 お客様が来たときも、母はこういうジャンクを出してくれないのだ。

 いつもデパートで買うラングドシャである。

 なので私は、「300円おやつルール」の中で、駄菓子類を買ったことがなかった。

 第一、どこで売っているのかも知らなかったのである。

 ユキさんと会うまで。


「イチノセさんって、おやついっつもコンポタか、コーラ味のラムネだよね?」

「シェアできますので」


 特にラムネは粒が小さくて、コストパフォーマンスがいい。

 

「いいよね。駄菓子ってシェア基準だったりするよね」


 駄菓子を食べ合いながら、会話が弾む。


 グループの女子が、ふたりともお手洗いに立った。

 しかし、並んでいるのかなかなか帰ってこない。


 思えば、ユキさんとこうして話すのは初めてだ。


「ありがとう、声をかけてくださって」

「うん。イチノセさんって」

「アユミとお呼びください」

「……アユミちゃんってさ、さみしそうだったから」

「私が?」


 言われたことがなかった。

「なんでも持っていてすごいね」

「得意なものが多くて、立派だね」

 と、これまで言われてきたが。


「声をかけてよかった。水族館を回ったときの説明、覚えてる?」

「ファーストペンギンと、説明していらしたわね」


 群れの中で最初に崖から海へ飛び込むペンギンのことを、そう呼ぶらしい。

 ベンチャー企業を起こす実業家の、別名でもある。


「声をかけたとき、不安ではありませんでした?」

「ううん。無視されるなんて思わなかったよ」


 ユキさんは、私と友だちになれる確信があったらしい。

 

「あたし、ちゃんとペンギンの役割できたかな?」

「あなたは、私を空へ連れて行ってくれた海鳥ですわ」

「えへへ、照れちゃうって」

 

 

 新幹線が、わが校の最寄り駅にたどり着く。


「ユキさん! もしよかったら、今からウチで遊びませんこと? 二人で」

 


 今度は、私がファーストペンギンになった。


「もちろんっ」

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