手ツインテをしながら、友人が「髪を切りたい」と言い出した。ダメダメ反対!

「ねえ、もう髪うっとうしいから切りたい」


 黒髪ロングを手ツインテしながら、ヒジリがため息をつく。


「ダメダメ絶対ダメぇ!」


 ワタシは、ヒジリの手ツインテを解いた。


「シズクだって、髪が重いってずっと言ってんじゃん」

「言ってるけど、ダメ」


 ヒジリの意見を聞きながら、ワタシは自分の髪を手でおさげにする。


「もう暖かくなってきたから、ちょっとすくだけでもいい?」


 ハンカチで、ヒジリが額を拭う。

  

「せっかく、ここまで伸ばしたんだよ?」

「それでも、背中まで伸ばすのは重いって」

「でも」

「ゲン担ぎなんて、シズクらしくないよ」


 現実主義のワタシに、「絵画コン入賞まで髪を切らない」願掛けなんて似合わないと、ヒジリはいうのだ。


「たしかにさ、コンのテーマって、『手ツインテ』じゃん」


 絵画コンによると、

『JKの持つ背伸び感と幼さを両立させた、パーフェクトなポーズ』

 なんだとか。


「気持ちはわかるよ。でもさ、もう暑いって。汗が髪について気持ち悪い」

「付き合わせたのは悪いって、思ってるけど!」


 思えば、もともとヒジリはショートカットだった。

 ワタシに合わせて、伸ばしてくれていたのである。

「短かった髪が伸びていく過程で、少女の成長を表現できる」

 と、最初はノリノリだった。

 しかし、背中まで伸ばしたあたりでヒジリは飽きはじめる。 


「それはいいんだけどさ、ヅラでもよかったじゃんって」

「ダメよ! ウィッグって案外ピョンピョン飛び出てるから、自然な感じが出ないの!」

「細かいねえ」

「そもそも、どうして急に切ろうと思ったの?」


 手ツインテをしながら、ヒジリは口を尖らせる。

 

「なんかさぁ。あんた、あたしの髪の毛だけスキっぽいんだもん」


 そう指摘されて、ワタシはドキッとした。

 心を見透かされた気分になって。


「シズクはさぁ、髪の長いあたしだけがスキなの?」

「ワタシは、あんたの髪が成長していく過程がスキなの!」

「だったらなおさら、切るほうが自然じゃん!」


 ヒジリは反論する。


「髪が伸びていくのは、たしかに神秘的かもしれない。でもさ、ここまで伸びた髪を切らないって、逆に不自然だよ? 見てこの表情、あんたの描いた表情だよ」


「……あっ!


「ほらあ! お手入れ面倒そうだなーとか、暑そうだなーとか、顔に出てんじゃん!」


 うかつだった。

 

「だって……そういうのも描きたかったんだもん!」

「つまり、ちゃんとあたしと向き合おうとしてたってわけ?」

「……うん」

「それは許すよ。でも、切るからね」


 ヒジリが、スマホを取り出す。美容院に予約をとるという。


「待って。あんたが切るなら、ワタシも切る」

「……わかった」

「今一瞬、考えたよね!?」

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