すき焼きのしいたけが、美味しく感じるようになってきた ーpixivお題「きのこ」よりー

「わーい。いただきまーす」


 チカが、グツグツと煮えたぎる鉄鍋に手を伸ばす。

 箸でつかむは、やはり肉からか。


「うーん。すき焼きって牛ってイメージがあったけど、豚もええね」


 共に関西人なため、豚すきはあまりなじみがなかった。

 しかし、豚肉ですき焼きをやってみようとチカが提案したので、試している。


「ホンマやな。これは、柔らかい」


 もっとベーコンっぽく、カチカチになると思っていたが。


 ボリューム感のある牛もいいが、さっぱりした豚もなかなかいい。


「ミユ、はい」


 チカが、舞茸をわたしによこす。


 とにかく肉を食べたいチカと違って、わたしは色々食べたい。

 特に、きのこ類が好物だ。


「ホフホフ。コリッコリやわ」

「ウチには、ようわからん世界やね」


 新しく入れた牛肉をパクツキながら、チカが呆れている。


 わたしは、できあがったしいたけを堪能した。


「あんた、しいたけも食べるねんね?」

「せやで。すき焼きはしいたけが目当てと言うてもええ」


 ああ、このトロトロ感がすばらしい。


「ウチらまだ高校生やで。すき焼きのしいたけが好物ですって、年寄りくさない?」 

「なに言うてんの。しいたけの味がわかって、ようやくすき焼きの本質がわかるねん」

「自分の考えを押し付けるんは、老害いうんやで」

「まあ、食べてみいや」


 わたしは強引に、チカの器にしいたけを乗せる。

 本当は、あれは一番大きなサイズなので、自分で食べたかった。


「ウチは肉が食べたいねんけどな」


 渋々、チカがしいたけを口へ運ぶ。


「ん、うまい!」


 モチャモチャと口を動かしながら、チカが目を見開いた。


「しいたけと生卵なんて、絶対合わんと思ってたわ!」

「ちゃうねん。タレが付いてる分、中和してくれるねんて」

「うっわー。こんなうまいねんな」


 モグモグしながら、チカがしいたけの旨味を堪能する。


「水炊きやったらポン酢でもええし、焼肉のときに傘の裏にしょう油垂らしてもうまいねん」

「あんたようやってるよな、あれ。どこがおいしいねんって思ってたんやけど」

「しいたけから、うまいエキスが出とんねん」


 私がきのこについて語ると、チカがニヤッとした。


「なんよ?

「あんた、やらしいな。きのこからエキスって」


 中学生か。


「どこがやねん。舞茸もいっとき」

「ん……これもうまい!」


 チカは、コリコリを堪能した。


「食わず嫌いはあかん、いうことやね」

「せやねん。豚の魅力もわかったことやし」

「うん。なんも試せへんことこそ、老害やねんね?」

「せやろな」


 わたしたちは、だんだん歳を取っていく。

 しかし、頭まで歳は取りたくない。

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