地味子、自撮りに目覚める ― pixivお題「自撮り」から
「私に、自撮りなんて似合わない」
「えーっ。せっかくショーコと仲良くなったんだから、撮ろうよ」
棒のチョコ菓子をツマミながら、ミサはやたらと私に自撮りさせようとする。
修学旅行で同じ班になったことで、彼女と仲良くさせてもらっているけど、ミサはことあるごとに写真を撮る。
今日もミサの部屋に呼ばれたが、要件が写真の撮り合いだなんて。
「ショーコって元がいいんだからさぁ、自信持ちなよ」
「でも、恥ずかしい」
クッションを抱きしめながら、私は顔を隠す。
「やっば。その顔もらいます」
「やめてっ」
言っても遅かった。シャッターが下ろされる。
「嫌だって言っているのに」
「ゴメンゴメン。でもさ、それくらい記録に残したい顔なんだって」
顔が近い。
ミサはいつも、距離感がバグっている。
どうして、人とこんなに近づけるのか。
私には、そんな勇気はなかったな。
「嫌がらないんだね」
ほぼゼロの距離から、ミサがささやきかけてきた。
「えっ?」
「あたしさ。こんなカンジじゃん。たまにさ、バッ! と避けられちゃう時があるんだよね。そんときはマジ凹む」
ミサが、ベッドにゴロンとなる。
「ミサでも、落ち込んだりするの?」
「するよ~。もう、しょっちゅう。あたし、人の気持ちなんて読もうともしないからさぁ。いっつもあたって砕けろで、近づきすぎちゃって。でも、あーこの子には好かれてないなーって、距離感でわかっちゃう」
この子はこの子なりに、デリケートだったんだ。
距離感のバグも、彼女が相手のテリトリーを測れないからで。
写真の中だけではわからない、一面が見られた。
「クスッ」
「あっ。今笑った?」
「ごめん。変な意味じゃなくて」
私は、クッションをミサに渡す。
「メイク道具、貸して」
「ん? いいけど?」
「自撮りする」
ミサが、目をキラキラさせた。
「マ!? じゃあさ、あたしがメイク教えたげる!」
「ありがと」
こたつテーブルの前に私を座らせて、ミサが私に化粧を始める。
三編みをほどき、口に紅を塗って。
これでもまた、距離が近い。
そこまで近いとかえって作業しづらいのでは、と思うくらいに。
「やっば! ショーコ見てみ!」
「……これが私?」
鏡の中に、すっかりギャルメイクになった私がいた。
「ナチュラルメイクのほうがホントは似合うんだろうけど、せっかくだしって思ってガッツリ仕上げた」
「超ウケル」
時代的に合っているかわからないが、わかる範囲でのギャル語で返してみる。
「じゃあ記念に写真」
私は、生まれて初めて自撮りをした。
その隣には、ミサも入っている。
これは、二人だけの秘密にした。
恥ずかしくて、見られたくないからじゃない。
楽しい時間を、独占したいからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます