日本最速海開きにホットパンツで来たら、ガッカリされた。解せぬ。

「えー、セラったら、ホットパンツを着てきたのー?」


 親友のアカリが、がっかりした。


 一応、デニムの下には黒の水着を着ている。

 スポーツ用の地味なやつだが。


「五月でもこんなに暑いんだから、もっとセクシーに決めてくれてもよかったのに。せっかく日本最速の海開きに来たんだし」


 私たちがGWで最初に旅行しに来たのは、日本でもっとも早く海開きをする海岸だ。

「せっかくだし、今の季節じゃないっぽい遊びをしよう」

 と、決まった。

 

「悪い? だって、ハズいじゃん」


 たしかに、五月だというのに夏日を記録したり、今年は暑い。

 とはいえ、アカリのようにTシャツとビキニで攻める気にはなれなかった。アカリほどスタイルもよくないし。


「うーん、気持ちいい。セラもデニムなんか捨てて海に入ろうよ」

「いいよ私は。デニムでも気持ちいいし」

「えーっ」


 口角を下げるなって。


「だってこれじゃ、あたしがバカみたいじゃん」

「実際バカじゃん」


 まだ風は冷たいというのに、花柄のビキニで来やがって。

 どれだけ、常夏気分なんだよ?



 海開きを告げる、ホイッスルが鳴った。


 観光客が、一斉に海へと入っていく。

 

「はいはい。頭が常夏の人は、さっさと海に入った入った」

「えーっ」


 私は、足首だけ水につけた。

 うおおお、これだけでも身体が芯まで冷える!

 これ、死んじゃう。身体まで浸かったら死ぬ自信がある!


「セラもおいでって」

「ひゃあ!」


 しかし、私の手首を引く死神の手が。


 ドボン、と私はうつ伏せに海へ腹を打ち付ける。


「ぶわはあ! 死ぬ! 心臓が止まる!」

「大丈夫だって! じきに慣れるから」

「こんのお。でも、ホントだわ」


 身体が、なじんできたぞ。


「水もきれいだね」

「まだ、入った人も少ないからね」

 

 子どもがバシャバシャと掛け合う水に、わたしの背中が濡れた。


「おおう」とセラが、私の透けた胸元を凝視する。


「やめんかスケベオヤジ」

「いやさあ、やっぱモデル体型だから、セラのほうがセクシーなんよね」


 だから、嫌なんだって。男の人の視線が気になるの!


「こうしてみると、あんたのデニム作戦も、あながち間違ってなさそう」

「何が?」

「人の視線を集めるの」

「いらないよ。インスタするわけじゃあるまいし」


 海では、目立たないに限る。


「スポーツ系の水着にしたのも、そういうヒップアップ効果を狙ったとか」

「狙っていませんー」


 単に、見せたくないの。


「そっかー。あたしも下はデニムにすればよかったのかー」

「なんで、そういう結論に達する?」


 私は、背筋がゾワッとした。

 

「あんたは、どうして目立とうとするの?」

「だって、久々の旅じゃん。思い出が欲しいの」


 大学ではおとなしい優等生で通しているから、知らない人ばかりの時は大胆になりたいらしい。

 

「ナンパされるのが、目的だと思ってた」

「あーないない。あたし性格悪いから。ゼミでもコンパでも評価低かったじゃん」

「ヤリモクのヤツらしか来なくて、ひどかったよね」

「だからさー、誰にも邪魔されないで、ありのままの自分でありたいわけよ」


 アカリの気持ちもわかる。


 ただ、私は隠すほうがありのままだ。

 紐ビキニなんて、私のガラじゃない。


 だから人と会うときも、ホットパンツが最大限なのだ。

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