スニーカー貸して! ― pixivお題「スニーカー」、モノガタリードットコム「借り物競走」より

 体育祭は、我が一組がドンケツで負けている。


 リレーは強敵が揃っているので、もはや勝負は絶望的だ。


 他の競技で、少しでも上位に食い込めるかどうか。


『次は、借り物競争でーす』


 運営委員がアナウンスした後、選手が入場してくる。

 友人のユナの姿も。


 ユナが、こちらに手を振っている。


 彼女は勝敗に関係なく、楽しんでいた。


 かくいう私も、あまり勝敗にはこだわっていない。

 とはいえ、クラス委員として鼓舞する立場にあった。

 

 ピストルが鳴って、ユナがメモ用紙を手に取る。


 すぐさまダダダ―っと私の元へ。


「トモ、スニーカー貸して!」


 ユナが手にした札には、「ピンクのスニーカー」と書かれていた。

 

「私の?」


 たしかに私のスニーカーには、ピンクのラインが入っているが。

 

「そう。貸して貸して」

「いいけど」

「ありがと」



 と、なぜか私はお姫様抱っこされた。


 なんなんだ?


 往来の面前でお姫様抱っこされるとは、何事かと?


 会場も、なんだか盛り上がっているし。


 ユナは、ぶっちぎりの一位でゴールした。


 他の人は、保護者や友人に事情を説明しながらであるため、足踏みしている。


 私とユナは友人同士だから、そこまでパニックにはならなかった。

 

「はい。OKです。あなたは退場してください」


 私は、席へ戻る。


「へっへーん、どうだった?」

「どうだったじゃないでしょ!?」


 どうして、お姫様だっこだったのか。


「だって脱がせると時間かかると思ったんだもん」


 たしかに、私は次の競技でムカデ競争をやる。

 靴を脱いだり履いたりは面倒だ。



「だからって、担いで連れてくることないわよね?」

「でも、ピンクの靴なんてトモしか履いていなかったし」

「保護者の席にいたでしょうが」


 ピンクのスニーカーを履いた幼女が、保護者席で何も知らずにワイワイとはしゃいでいる。


「あの子はダメ。三組にいる男子の妹だもん。きっと協力してくれないよ」


 敵チームの身内か。それならアウトだな。


「よく相手チームの身内なんて覚えているわね?」

「近所だし」


 うーん。近所だから仕方ないとはいえ、同学年の男子が近くにいるってのは。


 嫉妬してもしょうがないのだが。


「それにさ、汚したくなかったんだよね」

「何を?」

「あんたのスニーカー。新品でしょ?」


 私は、自分のスニーカーに目をやった。

 体育祭が始まる前に、購入したのである。


「古くなったから買い替えただけよ」

「それでも、大事そうにしてるから」



 体育座りしながら、ユナは顔だけこちらに向ける。

 

「そりゃあ、アンタが選んでくれたものだし」

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