先生とイケギャル ー pixivお題 『先生』 より

「ちょっと斉藤さん!」

「んだよ」


 また、斉藤さんが歩きスマホをしている。

 

「歩きながらのスマホはダメって言ってるでしょ!」

「るっせえなー。誰も歩いてないからいいだろー」

「ダメよ! 先生が歩いています。それにここ、職員室前じゃない!」

「自販機近いからぶらつくのにちょうどいいんだよー」

「とにかく、目立つ行為は慎みなさい!」

「はーい」



 また、スマホをポチポチしだす。


「せーんせ」

「なによ」

「ん」


 そう言って、斉藤さんは私にホットココアのボトルを差し出した。


「あ、ありがとう。どうしたの?」

「いや、だってスキじゃん。ココア。今朝だってあたしの淹れた」

「ちょっと斉藤さん来なさい!」


 私は、彼女を保健室まで拉致した。

 

「もーおっアンズちゃん、めっ! 学校では、同棲ナイショって言ってあるでしょー」

「だってさみしーんだもーん!」


 いつもはクールでツンケンしている斎藤アンズちゃんは、二人きりになるとフニャッとなる。

 

「学校でクール決めるのやだー 普段どおりふわっふわでいたい」

「おとなしくしなさい。ナメられるわよ」

「だってぇ、めっちゃ疲れるんだよぉクールキャラって」

「私だって、優等生先生キャラを無理して作っているのですよ!」


 三年間、何事もなく面倒を見る!

 これが、二人が過ごす条件だったから。


「もういいよー。二人でどっか逃げよ。家事でも仕事でもあたしが取ってくるじゃん」

「そういうわけには、いかないわよ。どこの世界に未成年に働かせる教職員がいるのよ?」

「フィクションの中にはいそうじゃん」

「ここは現実ですよ!」


 どうにも、アンズちゃんは自立心が強すぎる。

 だから、おうち側が野放しにできないのだろうと思うけれど。

 

 このコなら、勝手に家を飛び出しかねない。

 事実、アンズちゃんは「私が教えている」というだけで、この学校を選んだくらいだ。 それなりの行動力はあるが、私以外の話題になるとポンコツになる。


「先生は、あたしが側にいると迷惑?」

「冗談言わないでよ。ただ、教育者って立場上、あなただけをヒイキするワケにはいかないのよ。私だって、誇りとプライドを持って教育の場に立っているの。公私混同するためじゃないのよ。わかった?」


「リモートで、授業風景を流しておけばいいじゃん」

「それだと、ついていけなくなる子だっているの。みんな、あなたのように一を聞いて十を知るタイプじゃないんだから」


 この子は見た目こそギャルで、素行も悪い。

 だが、勉強の要領だけはすばらしくいいのだ。

 そのせいで、増長しているが。


「せっかく休学が多いんだから、もっと二人きりの時間がほしいよ」


 彼女が最近より不良じみた行動を取るのは、かまってほしいからか。

 ちょっと、ヘラってきているのね?


「わかったわ。週末はデートしましょう。部活もやらないし」

「やったー。アイスアイス」


 まったく。


「じゃあ、行こうよ先生」


 廊下に出た瞬間、アンズちゃんはクールなイケギャルの斉藤さんに戻った。

 

「さ、斉藤さん、もう具合はいいのね?」

「うん。あんがと。ミドリちゃん」


 もー、ここで下の名前でささやくのかーっ!

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