ちょい百合短編集

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

フードコート接待 ― モノガタリー・ドットコム お題「ワンコイン接待」より

「いやいや、ミユキパイセン! ささ、どうぞどうぞ!」

「う、うむ」 


 あたしは、後輩のリチーから接待を受けている。

 といっても、五〇〇円分だけだが。


 フードコートで買ってきたドーナツとコーラ、コンビニで購入した大量の駄菓子が、あたしの前に並ぶ。


 学生の身分で接待も何もないが、まあ本人が楽しそうならいいか。


「どれがお気に召しましたか?」

「このソフトキャンディ、いいね」


 コロコロしていて、手がベタつかないのが気に入った。


「さすがお目が高い! これは一二〇円もした……」

「いいから、要件だけ言いなさい」


 ドーナツを頬張りながら、あたしはリチーに聞く。


 あたしを接待しようっていうんだから、なにか企んでいるに違いない。


「事情だけでも話しなさいな。聞いてあげるから。話すだけでも楽になるはずだよ」

「うう。では」


 リチーが、重い口を開く。


「おおかた、また妹とケンカでもしたんでしょ?」


 間髪入れずあたしは答えた。

 

「う、お」


 ぐうの音も出なかったらしい。


「姉であるあたしを、パイプ代わりにしないでちょうだい。これは、本人たちの問題でしょ? 肉親って言ったって、あたしは第三者にすぎない。なんの事情も知らない方がいいって」


 ややお高いドーナツまでいただいで言うのもなんだが、こればっかりは仕方がない。

 接待にお説教はつきものだと、わかってもらおう。


「そうなんですが、私たちで話し合うとなると、どうしても感情的になるというか、なんというか」


「あのねえチエリ! そうやって、人同士って仲良くなっていくもんじゃんか!」


 あたしは、リチーを本名で呼ぶ。

 リチーが、ハッとなった顔になった。


「衝突も、一種のコミュニケーションだよ。二人は、まだ未熟ってわけ。どっちかが折れるか、最後までぶっ倒れるまで言葉で殴り合うか、どっちかしかないじゃん」

「もし仲直りできなかったら」

「そんときは、そんときでしかないよ。ヘタにあたしが介入したら、それこそ余計にこじれるよ」

「はい」


 二人の関係がステップアップするためには、当人同士で話し合うしかない。

 

「このことは、妹には黙っておくから。今日のところは、自分への宿題にしなよ」


「そうですね、ありがとうございました!」



 翌日、リチーは無事にあたしの妹と仲直りできたという。

 



 が、数日後。



「いやはや、お姉ちゃん! 今日はわたくしめがこのフードコートトップ人気アイスをごちそうして……」


 妹があたしをフードコートへ連れてきた。


「いいから仲直りなら自分たちでやりなさい!」

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