エスターと運命の1週間 ― Who’s that girl? - His seven crucial days in Los Angels ―
■#22 Day 7 Sunday Afternoon (2) ――7日目。日曜の午後 (2)――
■#22 Day 7 Sunday Afternoon (2) ――7日目。日曜の午後 (2)――
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アナのスマホのGPSを頼りに、車を走らせたエスター。
到着した場所で、アナを見つけることはできるのか?
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白い一軒家の近くに、エスターのレンジローバーが停まった。
「このへんだよな……あの家か?」少し離れたところからエスターは様子をうかがった。
なんの変哲もない、きれいな家だ。
でもこんなところにアナが来るなんて――いったいだれの家なんだ?
そう思って見ていると、玄関ドアが開いた。住人が出てきたようだ。
えっ、教授!? 教授の家なのか? エスターは思わず身を乗り出した。
マクドネル教授がひとりで出てきて、車に乗ろうとしている。
エスターはぼう然とした。アナのスマホがあるのは、教授の家だった。でも、教授は知らないといった。アナとはまったく関係ないといいたげな口ぶりだった。つまり、知られたくないということだ。それはつまり――ふたりは秘密の関係ってこと。そんなうわさがあるって、クレアがいってじゃないか。
教授は車に乗り、どこかへ出かけた。どこだかわからないが、ひとりで。
エスターは運転席のヘッドレストに頭をトン、ともたせかけて天井をあおいだ。
なにやってんだよ、ぼくは。
なんでこんなにショックなんだ。まるで、昔のあのときみたいに――。
ああ……そうか……ぼくは、アナのこと――。
同じようなことのくり返し。ぜんぜん成長してないのかな……。
もう帰ろう、とエスターは思った。ふたりが楽しく過ごしているところへのこのこやってきて、ほんと、ばかみたいだ。
そう思いながら、なぜかエスターは車をおりた。
なにやってんだよ――。
そう思いながらも足が止まらない。
やめろ、早く帰れよ。
もうひとりの自分が頭のなかで大声をあげているのに、どんどん足は教授の家に向かっていく。
ビーッ!
玄関ベルを押していた。だれも出てこない。
ビーッ! ビーッ!
なんの動きもない。
秘密の関係なら、おもてに出てくるような目立つことはしないか……。
エスターは家の横から裏手にまわった。
なにやってんだよ、おい、こんなことやめて帰れよ。
自分の内なる声に、やっぱり体は従わない。
カーテンのすきまから見えるリビングらしい部屋には、だれもいなかった。家のまわりを一周しても、まったく静かなものだった。
アナはいないのか? でも、ここから徒歩で出かけるところなんてなさそうだけど。
そう思いながら、家の裏手の草地でなにげなく向きを変えたときだった。
「うわっ!」
足元になにかが飛び出し、踏みそうになったのだ。あやうく尻もちをつきそうになって、なんとか体勢を立て直す。よくよく見ると、飛び出してきたのは猫だった。
黒とグレーのしましま――いや、渦巻きもどきの模様。その猫が、なにかをくわえている。獲物でも取ってきたのか?
いや、ちがう――あれは――。
エスターはしゃがみこみ、猫のほうに手を出してチッチッと呼んだ。あいにくキャットフードみたいにいいものは持ってなかったが、なにかもらえると思ってくれたのだろうか、猫は寄ってきた。
あごの下をなでてやると、くわえていたものをぽろりと落として、ぐるぐるいった。けっこう人なつこいやつらしい、助かった。
すかさず落ちたものを取る。
やっぱりそうだ! これは、アナのしっぽ型のふわふわストラップだ。
なんでこの猫がこれを持ってるんだ。教授の猫なのか? それにしては汚れていて、飼い猫には見えない。
でも、やっぱりアナはここにいるんだ。
しばらくすると、教授が車で戻ってきた。ビニール袋をさげていて、なにか買ってきたのだとわかる。ワインのように見えるボトルが袋から覗いていた。アナといっしょに飲むんだろうか。でもアナはまだ酒を飲んでもいい年齢じゃない。ぼくもだけど。
あまり長いこと同じ場所に停まっているとあやしまれると思い、エスターはいったんその場を離れた。自分が頭に血がのぼっているのもわかる。冷静にならなきゃいけない。
自宅のコテージに戻り、猫たちの世話をした。いつものことに意識を集中させると、少しは冷静になれた。それでもアナのことは頭から離れなかったが……。
テラはエスターにもずいぶんさわれるようになった。とくに、ごはんの時間中は。テラの手ざわりは格別だ。ふわふわ、すべすべ。アナの髪もこんなふうなんだろうか。子どものころは赤毛でくるくるだったのに、どうしたんだろう。聞いておけばよかった。そんなことを考えて、はっとする。あの髪を、いまごろ教授がなでているかもしれないんだ……。
エスターは頭を振り、動物病院から連れ帰った子猫のケージにも新しいごはんを入れてやった。子猫は食欲旺盛で、すっかり元気になったようだ。ケージのすきまから前足をちょこちょこ出して、外に出たいとアピールしている。
「もう少しがまんして。ぼくが一日じゅう様子を見ていられる日がいいから。次の週末とか」
次の週末――そのとき、アナはここにいるんだろうか――。
いっしょに獣医のところへこの子を迎えにいくと約束していた。でも、なんの連絡もなくアナはあらわれなかった。そして、いまも連絡は取れない。
彼女は子猫のことなんかどうでもよかったのか……?
アナがここにいた2日間のことが、エスターの頭につぎつぎとよみがえった。
猫たちとふれあってうれしそうだったアナ。
テラをブラッシングできたと喜んでいたアナ。
ゲームアプリを入れて猫をあつめて、はしゃいでいたアナ。
子猫をいっしょに迎えにいこうと誘ったときの、うれしそうな顔。
ああ、ちがう。アナはそんな無責任な――いい加減な子じゃない。
万が一、ほんとうに教授となにかあったとしても、約束を破るような子じゃない。
やっぱり、なにかがおかしいんだ。ぼくはひどい思いちがいをしてる。
エスターはスマホを取り出し、電話をかけはじめた。
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