エスターと運命の1週間 ― Who’s that girl? - His seven crucial days in Los Angels ―
■#19 Day 5 Friday Evening ――5日目。金曜の夕方――
■#19 Day 5 Friday Evening ――5日目。金曜の夕方――
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教授に拉致されたアナスタシア。
彼女と連絡が取れなくなったエスターは――。
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アナが電話に出ない。
夕方、エスターはすでに2回電話をかけていた。
カフェテリアで待ち合わせのはずだったが、もう約束の時間を30分過ぎている。あと10分したら、もう一度かけてみようか……。
しかし10分後。「お客様がおかけになった番号は――」まさかの圏外か充電切れだ。
エスターはカフェテリアを出て、アナの寮に向かった。彼女の部屋まで行ってみたが、だれも出てこなかった。次に医科学研究所に行ってマクドネル教授の研究室を訪ねたが、やはりだれもいなかった。
おかしい。なんの連絡もなしに約束を破ってどこかに行ってしまうなんて。それともなにか急用でもできて、忘れてしまったんだろうか?
しかたなく、エスターはひとりで動物病院まで子猫を迎えにいき、連れて帰った。子猫はオスで、生後3カ月くらいだろうということだった。ずいぶん元気になり、車で自宅のコテージに移動しているあいだもキャリーのなかでうみゃうみゃいっていた。
「だいじょうぶだよ、すぐに着くからね」
***
ピチョン……ピチョン……。
わたしは地下室にいた。
暗くて窓もない部屋。明かりは天井から下がっている小さな電球ひとつ。雑然といろんなものが置かれていて物置きのようでもあるが、ボックス型の小さなバスルームがあって水と電気は来ているようだ。蛇口の締まりが悪いのか、絶えず水の滴る音がしている。
手首のロープは手錠に変わり、そこからつながった鎖がバスルームのタオルハンガーに伸びていた。
信じられない……教授がこんなことをするなんて。
大学から車で10分ほどだっただろうか。教授の自宅と思われる一軒家に連れてこられたあと、地下室に入れられた。白い一軒家は庭が広くて、となりの家は数十メートル先に小さく見えただけ。地下から叫び声をあげても届きそうにない。
玄関から入ってほんの10秒ほどのあいだに見た玄関ホールとリビングは、花柄やレースにあふれた意外にもかわいらしいものだった。教授には奥さんがいるんだろうか。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
コンクリートの階段をおりてくる音がした。地下室への入り口は2階にあがる階段下の床にあり、跳ねあげ式のふたを開けると地下につづくコンクリートの階段が伸びていた。その階段をおりたところに重たい金属製の扉がある。その向こうが地下室だった。
金属扉がギイィと開き、マクドネル教授が入ってきた。
「アナスタシア、ここでしばらく考えなさい。自分がどうするべきなのか」教授はそびえ立つように上から彼女を見おろした。
「考えてもなにも変わりません。そのことは、研究室でお話ししたとおりです」気丈にもまっすぐに教授を見あげる。
「いや、1週間もすれば気持ちも変わるんじゃないか。ここにはいくらいてもらってもいいんだからな」
アナスタシアはぞっとした。ここに1週間? いえ、もっと……?
冷たくて、暗い場所。
だれかが探しにきてくれるなんて思えない。わたしがここにいることを、だれも知らない。だれにも連絡は取れない。何度かスマホが鳴ったけれど、出ることはできなかった。子猫を迎えにいく約束をしていたから、エスターだったかもしれない。でもスマホは教授に取りあげられ、たぶん電源は切られている。もちろんノートパソコンも。
でも、教授のいうことを聞いてうその報告書を出すなんて、やっぱりできない……。
なにもいわずにうつむくアナスタシアを見て、教授はいった。「ゆっくり考えるといい。時間はたっぷりある」
彼は背を向け、重たい扉を開けて出ていった。
1階に上がったマクドネル教授は、リビングに入って悪態をついた。
「くそっ、またか。いったいどこから入ってくるんだ」テーブルに積んでいた本が床に散らばり、キャビネットの上にきちんと並べておいた高級時計の位置がずれている。
半年前に飼い猫を連れて出ていった妻は、玄関ドアに猫の出入り口をつくっていた。そこはきれいにふさいだはずだ。裏口に空いていた出入り口もふさいだ。なのに、しょっちゅう野良猫が入ってきて家のなかをひっかきまわしていく。帰宅したときに何度か鉢合わせしたが、つかまえることはできなかった。
まったく腹立たしい。そのうちとっつかまえて、保健所送りにしてやる。
***
やっぱり電話がつながらない。
エスターはわけがわからなかった。
いったいどういうことなんだ。アナがなにもいわずに約束を破るなんて考えられない。
動物病院から連れ帰った子猫は、リビングの3段ケージに収まった。先住猫たちは遠巻きに様子をうかがっているが、フレンドリーなエアはさっそくケージの屋根部分からちょっかいをかけていた。子猫もなつこい性格なのか、フーシャーもいわずにエアと遊びたそうだ。
このぶんなら、早くに子猫をフリーにできるかもしれないな。
テラはソファの背に乗って、じーっとぼくを見ている。なにか話しかけているかのような……そう、あの女の子はどうしたの、とでもいっているような。
「テラ、アナも来るはずだったんだけど、連絡がつかないんだ。もう少し待ってて。夜にはきっと連絡がつくよ、明日は土曜だから来てもらえると思う」
しかし夜になっても、翌日の土曜になっても、アナは電話に出なかった。
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