■#14 Day 4 Thursday Morning ~ Afternoon ――4日目。木曜の朝~午後――

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エスターのコテージでやすらぎのひとときを過ごすアナスタシア。

しかし、知らないうちにクレアが動いていて――。


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 翌朝も熱はさがっていなかったが、37度台の後半にはなっていた。前の晩もアナスタシアのベッドにテラがやってきて、ずっとそばにいた。ブラシをしてやったところだけがふわふわで、早く全身をきれいにしてあげたいと思わずにいられなかった。

「エスター、だいぶ熱もさがってらくになったわ。今日はもう寮に帰ろうと思うの」朝食のときにアナスタシアは切り出した。

「いや、完全にさがるまでは無理しないほうがいいよ。ぶりかえさないように気をつけてってメグにもいわれたんだ。それに――」エスターはリビングにいる猫たちを見まわした。「こいつら、きみのことが好きみたいだから、もう少しいてやって。とくに、テラのために。テラもきみには警戒してないように見える。きみがいてくれたら、もっと馴れてくれそうな気がするんだ」

 もしかしたら、テラとアナスタシアは似ているのかもしれない。見た目だけじゃなくて、中身も――そう、アナスタシアには臆病な猫を思わせるところがある。だからぼくは、彼女を“放っておけない”んだろうか?

 でも猫たちのためだけじゃない。さっきは猫を理由にしてしまったけど、ぼくも彼女にはまだここにいてほしいと思ってる――もっとうちとけてほしいと思ってる。                                     

 エスターの言葉に、アナスタシアの心はぐらついた。

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えてもう1日だけ――」

 そのとき、またアナスタシアのスマホが鳴った。教授からの着信。

 ゆうべも2度目の着信があって、おそるおそるメッセージをひらいてみた。進捗状況はどうかとたずねる内容だった。返信していないから教授は怒っているかもしれない。体調不良だと返すこともできたけれど、いざとなるとなんと書けばいいのかわからなくて書けていなかった。

「だいじょうぶ?」エスターが心配そうにきく。

「ええ、ちょっと催促されていて」困ったような笑みを返す。「でも、だいじょうぶ」

「そうか。じゃあ、ぼくは大学に行くね。今日は午後も講義があるから、なにかあったら連絡して」

 じつは、ゆうべエスターと電話番号も交換していた。いまや彼の番号がわたしのスマホに入っているなんて、うそみたい。


 エスターが出かけたあと、アナスタシアはしばらくリビングのソファでやすんでいた。エアがさっそくやってきて、ひざに乗る。あったかくて、心地いい重み。すぐとなりでエルフも丸くなり、足元ではリーフがおなかを出してごろんと寝ころがっている。

 ほんの2日ほどいるだけなのに、ここはあまりに居心地がよくて、アナスタシア自身、離れがたくなっていた。

 思えば12歳で東部に引っ越してから、気持ちのやすらぐときなどなかった気がする。あのころはパパが事業に失敗して、エスターと同じ学校を突然やめなきゃならなくなった。

 東部に行ってもパパの仕事はよくならず、結局、両親は離婚した。ママはすぐにお金持ちの相手を見つけたかに見えたけど、ダグラスはただのヒモだった。

 わたしは公立の学校でもひたすら勉強した。勉強しか取り柄がなかった。トリニティのとき以上に学校では浮いていたけど、いい成績を取ればママのきげんもよかった。飛び級スキップして早く大学に入ったら、ママとダグラスから早く離れられる。奨学金ももらえる見込みがついていた。

 でも、受験の半年前。ママが留守のとき、ダグラスはわたしを……。

 アナスタシアはぎゅっと目をつぶった。思い出したくない。いくら未遂でも。

 家を飛び出して、施設に駆けこんだ。小さな施設だったけど、親身になってくれるいいところで、ほんとうにラッキーだった。ママたちに見つからないように手配してくれて、存分に勉強させてくれて、半年後に16歳でプリンストンに合格することができたのは奇跡だった。

 それからも必死で勉強しつづけて――。

 やっぱり少し疲れたのかもしれない。だからこうして、神様がごほうびをくれたのかも……。

 あと少しここでやすんだら、またがんばらなくちゃいけない。

 だからあと少し……少しだけ……。


 エスターは午前中の講義を終えて、カフェテリアに来ていた。アナスタシアはちゃんと食べているだろうか。レンジであたためればいいようにグラタンを置いてきたけど。

「エスター!」ベージュのワンピースを着たクレアがやってきた。「ビッグニュースよ!」ベーグルサンドとコーヒーを乗せたトレーをテーブルに置き、エスターのとなりに腰をおろす。

「へえ、なに?」

「おとといのパーティであなたをひっぱたいた子、いたでしょう?」クレアがトートバッグからクリアファイルを取り出した。

「あ、ああ」エスターはどきっとした。いま、まさにその彼女が自分のコテージにいるんだけど。

「アナ・ゴールドだったのよ!」クレアは紙の束を勢いよくテーブルに置いた。

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