第12話 陸上部が辛すぎる!?

「よし……では整列したまえ諸君!」


 部長が言う。


 諸君って……相変わらずな感じだな……


「部長、そんな言い方だと並んでくれませんよ。いい加減にしてください」


「いい加減にとはなんだね副部長君。私は部長なんだぞ! 偉いんだぞ!!」


「はいはい、部長ならもう少し節度を持って行動しましょうね。というわけで、短距離の人はここで。中距離と長距離の人たちはこの変な部長の指示に従って、一列に並んでください」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」


 悔しそうに副部長を睨む。

 だが、結局なにも言わなかった。

 正論だったからだろう。


 そして俺たちは言う通りに並びだした。

 俺はそこである人を見つける。


「……え、清水さん!?」


「……」


 話しかけたのに、横を向かれて無視された。

 間違いなく清水さんなのに。

  

 なんでだよ!

 前までちゃんと話せていたじゃないか。

 ……もしかして嫌われちゃったのかな。なにかいけないことしちゃったのかな!?

 凄い気になるけど聞きにくい!!


 しかも、朝練の時にはいなかったよな。今日の放課後から入ったってことか?

 聞きたいことが多すぎる!


「ねぇ……ちょっと……」


「……」


 話しかけようとしたが、なにも出来ず、そのままどこかに行ってしまった。

 姿が見えなくなる。


 Oh……

 ぜ、絶対に嫌われてるよこれ……

 終わりだよ。もう終わりだよ!


「清水さんがどうかしたんですか?」


 犬倉さんが話しかけてくれる。どうやら清水さんを知っているようだった。

 清水さんと知り合いなのかな……


「いや……別にちょっと嫌われているみたいで……」


「そんな風にはみえなかったですけど……知り合いなのですか?」


「まあ、この前色々とね……」


「?」


 不思議そうな顔をして知りたそうだ。


「あんまり言いたくないことだから……」


「……? よくわかりませんが、まあいいです。みんな仲良くしましょうね!」


 本当は言いたくないだけなんだけどね。

 嘘告されて、動揺したとか恥ずかしいし!


 そんなことを思っていると、きちんと並び終わる。

 そして、引き続き、副部長が説明を始めた。


 隣の部門の方では部長が説明している。清水さんはそっちにいるようだった。


「えっと……それで、今日から新入生も放課後練習ですが、練習はいつも通り、スクワット100回に50mを5回×10本をやってもらいます」


「それって……」


「お察しの通り、朝練と同じものですよ」


 やったことがあると思ったら朝練と同じだったようだ。


「おいおいマジかよ……」


 一番最初に声を上げたのは、超絶偉そうな、長谷川だった。


「これくらいの練習しかしねぇーのかよ。なんだ、拍子抜けだぜこの野郎。こんなところで道草食ってないで家で練習してた方が良かったかもな」


 ……やっぱり、凄い言葉に棘があるよな。

 なんていうか尖ってる……


「ああ、言い忘れていましたが、この朝練のセットを放課後練習では3セットやってもらいます」


「「……え?」」


 一瞬、なにを言ったのかわからなかった。


「……凄く驚いている人がいっぱいいるらしいのでもう一度説明させてもらいます。さっき言った朝練のセットを3セットこなしてもらいます。ただ、それだけのことです。長谷川君とかはきっと余裕で出来るはずですよね?」


 副部長が目で圧をかける。こんなことをするのは初めてだった。

 だから、流石の長谷川もこれにはビックリしているようだった。

 顔でわかる。めちゃわかりやすいな、こいつ。


「……ああ、もちろんだ」


「もちろんですか……」


「もちろん、簡単にやってのけてやる。俺はもう一度、ここでテッペンをとると決めた。面白そうだ」


 それを聞いて副部長がニヤッと笑う。


「では、練習を開始してください。新入生だけでなく2,3年生もどうぞ。手加減はいりません。どんどんとやってください」


 開始した。


「最初にゴールするのは俺だあああああああああああああ!」


 勢いよく、長谷川が飛び出し、50m走のところに行った。

 それを見て、上級生も飛び出した。

 負けたくないんだろう。俺もそれを見て、なんだか熱くなってくる。


 これが……競うということなのか。

 確かにこれなら今よりももっと強くなりそうだ。

 燃えて来たぜ!


「誠君もやる気みたいですね!」


「ああ、犬倉さんもか?」


「はい、みなさんのやつを見ているとなんだかやる気が湧いてくるんですよ。こんな体験初めてで凄い気分です!」


 ニコッと笑う。

 楽しそうだ。


「とりあえず、私と誠君でどっちが速いか勝負でもしますか? ちょっとくらい遊んでも怒られないでしょう」


「でも流石に……」


「女子だからって手加減は……なしですよ!」


 両手の人差し指でばってんを作る。

 うん、可愛い。


「……まあいいか。泣いても知らないからな」


「ふふふ~ん。見ててくださいね!」


 俺たちは50m走のところに向かい、位置についた。


「いくぞ。レディー……ゴー!」


 一斉に出発する。

 

「……は、速い!?」

 

 意外と速い。

 なめてたけど、本気でやらないと行けなそうだ。

 速度を上げる。


「……うう!!」


 そのまま俺が少し前でゴールした。


「はぁはぁはぁ……危ねぇ……」


「後少しだったのに……私の負けですね。参りました……」


「いや、犬倉さんも相当速かったよ。まさかこんなに速いとは思わなかった……」


「……褒められるとなんだか変な気分です。ありがとうございます!」


「あはは……」


「じゃあ私はもっと練習してきますね!」


 また走りに行った。


 ……疲れた。

 ギリギリでなんとかなったけど、ほんの少しの差だった。

 完全勝利とは言えないなこりゃ。


「これよりももっと速くなりたいな……クソ、もっと練習するか」


 俺も犬倉さんに続いていった。

 頑張ろう。


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「はぁ……やっと終わった。マジで……ホントマジで疲れた。これを毎日やるなんて冗談じゃないぞ……」


 倒れこみながら言う。

 足が痛い。ていうか、もう動けない。

 辛すぎるだろ、これ!

 陸上部ってこんな辛いの!? 

 

 周りを見れば、終わって休んでいる人もちらほらいる。

 長谷川とかもそうだ。

 

 だけど、あいつだけは他の人と違い、座ったりせず、立っている。

 どんだけ体力があるんだよ。化け物か!?

 ……いやでもちょっとだけだけど、疲れている顔をしているな。あいつでもこの練習はキツイのかな。


「誠君も終わりましたか。私もちょうどいま、終わりました。これは疲れますね……」

 

「ああ、これはヤバいな。明日絶対に筋肉痛だ」


「一日目でこれですから後々どうなるんですかね……」


 先が思いやられるぜ……

 

 そんな会話をしていると、部長が。


「じゃあ今日の練習はここまでだ。全員速やかに帰るように! アハハハハ!」


 どうやら終わりらしい。

 そういえばいつの間にか日が暮れそうになっていた。

 

「さてと、帰るとするか……犬倉さんも一緒に帰る?」


 方向も同じだから誘ってみる。

 初めての誘いだからなんだか緊張した。


「はい、一緒に帰らせてもらいます!」


 そこに。


「ちょっと待った!」


「「!?」」


 待ったをかける人が現れた。清水さんだ。

 目の前には疲れてそうな清水さんがいた。きちんと練習しているのが伝わる。

 

「私も一緒に帰らせてもらいます!」


 そして、そう宣言するのだった。

 

 こっちの方がドキッとした。

 


 

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