第11話 いよいよ、本格的な部活が始まるみたいです

「なぁ橋本……いまの話しどう思うよ?」


 期待するような眼差しで俺を見てくる。野村だ。


 はぁ……凄く面倒臭い。

 嫌だな……話したくもない。

 まあでもなにか返事しておくか。


「……なにがだよ」


「さっきから言っているだろ。昨日、俺がちょっとだけデートに遅れたらさ、美優ってば怒っちゃってさ。いま喧嘩中なんだよ。謝っても怒ってるし。……なぁ、これって俺悪くないだろ?」


「知らねぇーよ! ていうか、なんで俺がお前たちの惚気話なんか聞かなくちゃいけないんだよ!?」


「惚気話ってお前……これのどこが惚気話なんだよ」


「全部だよ!? まるまる全てだよ!?」


「やれやれ、これがそう聞こえてしまうなんて……少しかわいそうだ」


「なんで俺がおかしいみたいに話してんだよ!? おかしくないからね!?」


 今日の朝練が終わり、疲れ果てて教室に入ればこんな話を聞かされた。

 しかも、これから授業がある上に放課後の練習があるっていうのに。


 本当にいい迷惑だよ。

 彼女いるってだけで羨ましいのに!

 こっちは誰とも付き合ってないのに!


「……とりあえず、美優の方を見てみろよ。あの顔だぜ」


 野村が指さした方向を見る。


 確かに怒っているな。めっちゃこっちの方睨んでいるじゃん。

 なんか俺まで標的にされてそうで怖い……


「……お前、ちゃんと謝っておけよ」


「お前も俺が悪いっていうのかよ!?」


「遅れたのが悪いし……」


「そ、そんな。お前なら味方してくれると思ったのに……」


 そんな会話をしていると。


「なんの話をしているのですか?」


「犬倉さん!?」


 犬倉さんが目の前にいた。

 朝練の後だから少し汗をかいていた。

 なんだか凄く……エロい。


「あ、初めまして犬倉です。野村さん……ですよね?」


「そうですけど。……凄く可愛いっすね」


 ニヤニヤとする。


「ありがとう。……もしかして、彼女さんのことですか?」


 おお、いきなり褒めたりできるのか。 

 しかも返しが上手いな、おい!

 言われ慣れているのかな……

 複雑な気持ちだ。


「おお、そうそう。よくわかったな。なんでわかったんだ?」


「それは私がさっき話しかけた時から目線が……」


「……え」


 もう一度、篠原さんの方を見ると。


「「……」」


 凄い睨んでる。めちゃめちゃに睨んでる。


 さっきよりも強いし、痛い!

 なにこれ怖い!

 

「お、お前……早く篠原さんの近くに行った方がいいんじゃ……」


「……お、おう。行ってくるわ。犬倉さん悪いな」


「いえ、私は別に……」


「じゃあ、行ってくるぜ。骨は拾ってくれよ……」


「ああ、わかったよ……」


 覚悟を決めて、席を立って歩いていった。

 見ているだけでも怒られているのが伝わった。

 うん、ちょっとかわいそうに思えてきた。


「野村君ちょっとかわいそうだね……」


「だな」


 そう言いながら、犬倉さんはもう戻ってくることはないだろう野村の席に座った。


「そういえば、今日から放課後の練習がかるの知ってました?」


「ああ、そりゃもちろん。絶対キツイと思うからね……」


「まあ確かにそうですね……」


 朝練であんだけキツいんだ。

 放課後の練習なんて最悪だろう。


「とりあえず頑張っていきましょう! この部活で練習すればもっと速くなると思いますので!」


「……そうだな。一緒に頑張ろう!」


「はい!」


 犬倉さんがいい返事をする。

 でも本当に速くなっているのかわからないんだよな。

 

「では、私はこれで。このことを言いに来ただけなので。じゃあまた放課後に」


「……放課後にまた」


 手を振って別れる。

 ちょうどいいタイミングでチャイムもなった。

 授業開始だ。


------------------------------


 放課後になった。

 ちょっと外が暗くなる。

 

「部活か……」

 

 やっと始まるんだ。

 部活という名の地獄が。


「……お前はいいよな。犬倉さんとかとイチャイチャしててよ」


「彼女持ちがなに言ってんだよ」


「彼女持ちっていってもいつもこんな感じだけどな……」


 顔には手のひらでビンタされた傷が見える。

 きっと篠原さんにやられたんだろう。


「でも、よかったじゃねーか。仲直りできて」


「これのどこが仲直りなんだよ! 殴られ損じゃねーか! お前にはわからんと思うけどな、結構痛いんだよ、美優のビンタは……」


 痛そうに手でこする。

 本当に痛そうだ。


「しかも、俺の言うこと全然理解してないし。今でも俺悪くないって思っているしな」


「……ってお前……」


 俺は野村の後ろの存在に気づく。

 教えようとするが、止まらないらしい。


「……ていうか、ぶっちゃけるとさ。美優よりも犬倉さんの方が胸デカかったし。いいなぁ……俺もあんな胸揉んで……」

 

「誰の胸が大きいって?」


 悪魔のような声が聞こえてくる。

 oh……


「げ……み、美優……嘘だろ聞いていたのか……」


「どうやら反省が足りないみたいね。もう一回こっちに来なさい」


「い、いやだ! 助けてくれ、橋本!」


「橋本君。わかっているよね」


 俺はそれを聞いて、なにもせず見るだけだった。


「あ、あああああああああ」


 つねられて、教室の外に連れてかれた。

 ご愁傷様です。


「あ、いっけね。そろそろ部活の時間だ。早く行かないと……」


 すぐに着替えて、校庭に行く。

 遅れたりすれば罰則くらいそうだし、遅れないようにする。


「……そういえば、あの子……清水さんって足速かったのに陸上部にいなかったよな。入ればよかったのに……」


 そんなことを考えながら、進んでいく。

 いよいよだ。

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