第10話 嘘だろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

「はぁはぁはぁ……」


 ヤバイ……胸がドキドキしてくる。


 あなたが好きなので無理です……か。


 これって告白ってやつだよな。

 漫画とかで見たことがあるぞ。

 好きな人に言う言葉だ……


 マジで凄い。本当に凄い。

 告白された!

 遂に俺にもモテ期が来た!! やった〜〜!


「あまり見つめられると恥ずかしいです……」


「ご、ごめん。こういうときどうすればいいかわからんないから……すまん」


 なにをしたらいいかわからず、見ていたら言われる。

 俺の方から目を離し、横を向く。


 これってなに。どういう状況!? どういう心境!?

 と、とりあえず何か聞くか。


「でもどうして俺なんかを好きに……」


「……」


 横を向いたまま、答えない。

 だんまりだった。


 超絶恥ずかしい。

 この間合いが恥ずかしい。

 でもなんだか新鮮味があって色々と複雑な気持ちだ。


 ここから発展して、キスとかするのかな……

 ヤバい。わからなすぎて心配になってきた。

 これでいいのかな!? ねぇいいのかな!?

 

「ちょっと……」


 間を埋めようと教えてくれと言おうとした瞬間。

 彼女から衝撃的なことを言われる。


「……ですよ」


「え?」


「嘘……ですよ」


「……え」


「嘘ですよって」


「……マジ?」


「……マジです」


「マジかよぉぉぉぉぉぉぉおお!」


 俺は大声で叫んだ。


 ……うん。やっぱりか。

 告白だけど、ただの嘘告ってやつじゃねーか!

 ふざけんな!


「……ちょっとからかってあげようと思っただけです。びっくりしました?」


「びっくりしたもなにも酷いよ! 普通にドキドキしてたのに酷いよ!?」


 ふふっと初めて笑う。

 なんだかそれを見て、吹っ切れた。

 別にからかったくらいならいいと思った。


 ……俺が告白されるなんて、あり得ないってことだな。

 一瞬でもモテ期を味わえてよかった……

 うん、別に悲しくなんて……ないんだからね! 勘違いしないでよね!

 俺、ガチでなにを言っているんだろう……


「……まあいいや。嘘ってことならこれから俺のことつけたりするなよ。さっきのやつ結構危なかったし」


「わかってます。これからはしないようにします。怪我するのは良くないですし!」


「わかってくれてたら……いいか」


 さっきまであまり話せていなかったけど、ちゃんと話せるじゃん。

 緊張してたのかな。

 からかったのはもしかして緊張をほどくものだったのかな。


「……それで、名前なんて言うんだよ」


「自己紹介の時、聞いてなかったんですね……」


「あはは、すまん」


 野村と同じ反応だな。

 凄く申し訳ない……

 あの時は自分しか考えられなかったんだよ。まあそのせいで失敗した感じだけど……


「全然いいですけどね、それくらい。……私の名前は清水正美しみずまさみです」


「清水さんっていうのか。俺は橋本誠だ」


「……知ってましたけど……橋本君って呼びますね」


「おう、よろしくな!」


「……よろしくです」


 少し恥ずかしいそうに言う。

 また緊張でもしてるのかな。もしかして今ので警戒されたとか!?

 

「……そういえば言い忘れてましたが、先程は助けてくださってありがとうございました。からかったのもすいません。ちょっとやりたくなっちゃいまして」


 頭を軽く下げられる。

 若干でも感謝と、悪いと思っているらしい。

 別に警戒とかはなかったようだ。

 仲良くは……なれそうだな。


「もういいよ。別になにも思ってないし。もう夕方になってきたし、そろそろいいか? 明日も朝練あるし」


「そうですね別れるとしますか……」


「じゃあまたな。なんかあったら言ってくれよ」


 そういって俺たちはそこで別れた。

 駅に向かって歩き出し、家に帰ろうとする。


「そういえば、なんで俺のことなんかつけてたんだろう……聞けばよかったな」


 次会った時に聞けばいいか。

 なにせ同じクラスだし。


「るんるんるん……」


 鼻歌を歌いながら、適当に歩いていった。


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「……」


 彼が行った後を眺める。

 どうやら完全にいなくなったらしい。

 私はそれをみてゆっくりをため息をついた。


「どうしよう……言っちゃった、言っちゃった……」


 言ってしまったのだ。

 好きだということを。そしてそれが嘘だということを。


「私はなんてことを……確かにさ、恥ずかしいのはわかるけど言ってはいけないものって限度があるでしょ、私ぃぃい!」


 なんだか泣きたくなってくる。

 ……本当にどうしようか。

 だって絶対、嘘だって思っているよね。


「嘘の嘘なのに……本当なのに……嘘なんかじゃないんだけどな……ああ、やってしまった、やってしまった……」


 今度は暗い感じのため息をついた。

 だって辛くなったんだもん!


 私はあの時のことを思い出す。

 痴漢魔から救っている彼の姿を。

 捕まえに電車から降り、走りに行った彼の姿を。

 しかもそのせいで二人で学校を遅刻してきたことも。男の人をカッコいいと初めて思った。


 そこからは簡単だった。

 意識していたらいつの間にか、彼を目で追うようになっていた。


 どういうものが好きで、どういうことをして過ごしているのか気になって、少しストーカーまがいなこともした。


 だけど、今日気づかれた。逃げたけど、捕まってしまって……そして、勢いで告白をした。

 なんだか、簡単に言えそうだったから。でも言ったら言ったで、意外と怖くて、不安で、恥ずかしかった。

 だから、嘘だと言ってしまったのだ。


「はぁ、ごめんなさい、橋本君。本当にすみません……」


 とっさに誤魔化してなんとかしたものの、色々と可哀想なこともした。

 天国から地獄へ叩き落としたんだ。


 きっと彼は私のことが嫌いになったに違いない。

 本当にどうしたものか。

 

「これからどう接していけばいいんだろう。もう、ストーカーとかしちゃいけないし。それこそ、完全に嫌われちゃうし」


 はぁ、なんだか考えているだけでも辛い。

 今日はとりあえず……


「帰ろう。帰ってから、どうにかしよう。そうしよう」


 現実逃避することにした。

 

「……まあでも、いつか真面目にやってればチャンスは来るよね! 私からじゃなくて今度は彼から告白……いやいやそれは無理かもだけど! でもまだ諦めたくはないな……」


 自分を慰めながら帰っていった。

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