第9話 これがモテ期ってやつ!?

「おいおい……速すぎだろ!?」


 走っても走っても追いつかない。

 どんだけ速いのよこの子!

 馬鹿速いんだけど!


「もしかしてさっきから俺のことをつけてるのお前なのか?」


 走りながら質問する。


「……」


 しかし、答えは返ってこなかった。

 そのまま俺から逃げ続ける。


「どういうことなんだよ。教えてくれ!」


「……」


 だが一言もしゃべらない。


 くそ。なんでなにも答えてくれないんだよ。

 俺の方も全然向く気がなさそうだし。

 やっぱり嫌われてんのかな!?


 そんなことをしていると道にでる。

 その先には。


「おいお前……危ない!」


「……!?」


 車が目の前に来ていた。

 急ブレーキをかけながらこっちにくる。

 だが、止まらず、こっちにくる。


 彼女は俺から逃げるのに気づかなかったらしく、道に出た瞬間、停止した。


 俺は飛び出す。

 

「間に合え……!」


 彼女をつかみ、逆方向に投げた。

 俺もその場で転んだ。

 車は当たらずそのまますぎていく。


「あ、危なかった……」


 ほんとギリギリだった。

 当たってたら死んでたかもしれないと思うと怖い。震えてくる。

 隣を見ると、俺が投げて、倒れている彼女が見えた。

 近くまでいき、話しかける。


「……おい大丈夫か? 怪我とかはしてないよな……」


「だ、だい……ぶ……」


「え? なに?」


 聞こえなかった。声が小さすぎる。


「大丈夫です……ありがとう……ございます……」


「……なら、よかった」


 怪我はなかったらしい。

 なにかあったら俺のせいでもあるし、怖かった。


 はぁ……安心した。

 轢かれそうでマジでビビった。

 誰も怪我しなくてよかった、よかった。


「それで、なんで俺から逃げたんだ?」


「……!」


「ダメだ。逃がさないぞ」


 俺の手から離れて逃げようとする。

 ちょっと力を入れて止めた。そこまで力は強く無いらしい。

 意外と小さくて、柔らかい手だった。

 諦めたようにそのまま崩れ落ちる。


「教えてくれ。なんでだよ」


「……怖かったから。怒られるのが……」


「俺が怒る!? 全然怒らないけど!?」


「ほら、怒ってる……」


「いや、これは怒っているんじゃないんだけど……」


「でも怖いよ……」


 そのまま泣き出しそうだ。

 目に涙が見える。


「おい、ちょっと……」


「うわぁ最低。女の子泣かせてる」


「ほんとだ。あの女の子可愛そう……」


「それな。隣の男キモすぎ」


「キモ男やん」


 わざとじゃないのに。

 本当にわざとじゃないのに!!

 しかも最後のなに!? 悪口やん!


 近くの俺と同じくらいの高校生が馬鹿にしてくる。

 言い終わったらすぐに消えた。

 なんなんだアイツら。

 

 くそ……どうしていつも真面目な思いをするんだ。とほほ……


「ご、ごめんなさい。私のせいでなんか言われているみたいで……」


「いや別にいいけどさ。いいんだけどね!?」


 うん、ちょっと悲しくなっただけだし……

 なんともないさ……


「でもよかった。怖かったけど、ちゃんと確かめれて……」


 安心したように言う。


「確かめた……?」


「私、あなたのことずっと見てました」


「それは……知ってるけど」


 なんか恥ずいな。

 ずっと見てたとか言われると……


「あなたが痴漢から助けたところからずっと……」


「え……見てたの!?」


 マジかよ。

 あの現場が見られていたってことか……

 さらに恥ずかしくなってきた。

 だけどどうして今更言ってくるんだろう。


「はい……すいません……怒るなら怒ってください……」


「なんで怒る前提で話してるの!? 怒らないよ!」


「だっていけないことしたら凄く怒りそうだったから……あの時も結構怒ってたし……」


「あれは怒るけどさ……こっちとは話が違うじゃん……」


 あの時は必死だったし。

 仕方ないでしょ。


「なら、良かったです。見てても怒らないんですね……」


 本当になんなんだ。意味がよくわからない。

 どうしてそんなことをしてきたんだろう。

 ……まあとりあえず、つけるのはやめてもらうか。


「なあ、じゃあこれからついてくるのはやめてくれるか? なんか、つけられている感じがして嫌なんだ……」


「そ、そんな……それはできないです!」


「え? なんで? いまの流れ的にやめるところでしょ!?」


 凄い感じで反抗してくる。

 なんでやめないんだ。マジで理解不能だ。


「だってそれは……」


「それは……」


 頬を赤く染めながら、


「あなたが好きなので無理です!」


 そう言った。


「……は?」


 なんて言ったんだろう……

 多分、聞き間違いだよな。

 うん、そうに違いない。もう一度聞いてみよう。


「……なんていったんだ。もう一回言ってくれるか?」


「あなたが好きなので無理です……何度も言うのは……恥ずかしいですね」


 聞き間違いじゃなかった。ちゃんと言ってた。しっかりと言っていた。


 一応、ほっぺたをつねってみるが、現実だった。

 つまりこれって……


「モテ期ってやつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」






 

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