第8話 俺、もしかして……呪われているかもしれません

 キーンコーンカーンコーン。


 大きな音でチャイムが鳴る。

 6限目、つまり最後の授業が終わったチャイムだ。


 朝練のせいで色々とヤバかったが、なんとかなった。

 

 そして、ホームルームが終わり、今日の学校が終わる。


「う~ん授業が終わった……! この後は美優とデートでもするかな。久々にいきたいところもあるし」


 篠原さんとアイコンタクトをとる。

 ニコッと返しているのでいいよってことだろう。

 

 なんだろう。こうも目の前で見せつけられると本当にイライラしてくるんだが……


「……彼女もちの自慢とかやめてくれないかな。イライラするんだけど……」


「あははは、別にいいだろ。ていうか彼女くらい高校生なら普通じゃないのか?」


 当たり前のように言ってくる。

 なにを言っているんだこいつは。


「普通なわけないだろ。自慢じゃないけど俺なんかいまのいままで一人もいたことがないぞ」


「うわ……」


「なんだようわ……って!?」


「だって一人もいないとか寂しいなんて比じゃねーよ。かわいそうだよ」


「目の前にいる人に向かってかわいそうとかいうなよ! 虚しくなるだろ!?」


「うわ……」


「だから言うなって!」


 泣きそうになってくる。

 なんで授業が終わったっていうのにこんなことを言われなきゃいけないんだよ。


「まあでも俺的にはお前って結構モテると思うんだけどな……顔も悪くはないし、性格もいいし、陸上部に入ってるし。なんでモテないんだろう。やっぱ犬倉さんのことかな」


「前から言ってるが、俺と彼女は付き合ってないぞ」


 犬倉さんの方を向く。

 まだ帰っていなかった。

 向くと、こっちに手を振ってくる。俺も手を振り返した。

 ……凄く嬉しい。


「だけど仲はいいだろ?」


「……そりゃまあ。ちょっとは……」


 仲はまあまあいい気がする。

 友達って言ってもいいんじゃないかな。


「それのせいだな。女の子ってのは異性が自分よりもランクが上の女の子と仲いいとあまりいい気がしないらしいし。まあ誰だってそうか」


「なになんでも知ってます的な風に話してんだよ。自慢かよ!? 恋愛マスター気取りかよ!?」


「ってことでアドバイスもしてやったことだし、俺は美優と遊んでくるから。お前はお前で彼女作れるよう頑張りたまえ!」


「うぜぇぇぇぇぇ!」


 笑いながら篠原さんと一緒に出て行った。

 

「全くだよ。俺がモテるわけないのに……」


 中学の頃なんてそれはそれは酷かった。

 無視だ。誰も俺に関心も持たないし、誰も話しかけてこない。

 話しかけて来る奴はちょっとした物好きくらいだ。


 当然、中学のメル友とか一人もいないし、同性の友達すらまともに作れなかった。

 ホント、酷い有様だよ。


「まあ、いまは少しマシになったからよかったっていえるのかな」


 だから今こうして色んな人と話せているのは奇跡だといってもいい。

 凄いと自分でも思う。


「モテたいのは流石に強欲だよな……って!?」

 

 いい話をしている時にまた今日の朝で起きた電車の時と同じ感覚を感じた。

 視線だ。誰かの視線を感じる。

 この前より強くなってる気がする。

 

「またかよ……でもいったいどこから……」

 

 周りを見るが、教室にはいろんな人が居るせいで誰の視線かわからない。

 でも気のせいではないと思う。


「……もしかして俺って呪われてたりする!? こいつキモいから呪ってやろう的な……」


 急に怖くなってきた。

 寒気がして、ブルブル震えて来る。

 基本お化け屋敷とかは大丈夫なんだが、現実での方は……無理なの忘れていた。

 

「帰ろう……今すぐに帰ろう……」


 すぐに支度をする。


「絶対ヤバいよこれ。早く帰んないと……殺される……!?」


 さらに怖くなってきた。

 今すぐにでもここから出て行こう。

 部活も放課後練習もまだないし。不幸中の幸いだ。


「よし、これで準備完了。走って帰らないと……」


 急いで、教室を出る。

 そのまま走って、下駄箱に行き、学校を出た。


「ふぅ……これくらい走れば、大丈夫だろう。結構速かったし」


 いつもより速く走れた気がする。

 これが俗にいう火事場の馬鹿力ってやつなのかな!?


「とりあえず帰ろうかな。これ以上面倒なことに……!?」


 また感じた。

 おいおいふざけてんのか。どんだけ速いんだよこの野郎。

 俺の走りに追い付けるっていうのかよ!

 

「くそ……逃げるしかねぇ!」


 走り出す。

 学校から離れたところにある商店街に行ってみたり、駅前に行ってみたりするが、その視線が消えることはなかった。

 むしろ強くなっている気がする……どうして俺がこんな目に!?


「なんなんだよ、これ。ずーっと続きやがって……あああ、イライラしてくるな。最初は怖かったけど、よくよく考えてみるとムカついてくる」


 頭をかきむしりながら言う。 


 だって、そうだろ。

 ずっと付きまとわれている感じがするんだから。

 しかもその正体がわからないとか気持ち悪いったらありゃしない。

  

「なら……絶対に正体を突き止めてやる。……あそこで角待ちしよう」


 道の角が見える。

 俺の後ろについてきているとすれば、あそこで待っていれば、勝手についてくるはずだ。

 

 走って、その角に着く。

 

「あとは待つだけだ……案外ドキドキするな……」


 どんな奴なのか。凄く、緊張してくる。

 これで本当にヤバい奴だったらどうしよう。 

 ……心配にもなってきた。


 少し時間が経過する。


「まだか? やっぱり俺の気のせいなのかな。居るわけないのかな……」


 誰も来ない。

 

「……一旦見てみようか。いなかったら俺の気のせいってことで片付けよう。そうしよう」


 見てみることを決意する。

 なんでも男気が大事だしな。


「よし、行くぞ。1、2の3!」


 角から出る。

 そこで。


「うわ!?」


 思いっきり人とぶつかった。

 しりもちをつく。


「痛たたた……す、すいません。ぶつかってしまって怪我とかは……!?」


 目を開けて謝ろうとした瞬間。俺の目に映ったのは。


「ぱ、パンツ!?」


「!?」


 女の子の赤と白のシマシマのパンツだった。

 その子は恥ずかしそうにスカートを手で押さえ、すぐに隠した。


「わ、悪い。見る気はなかった! 本当になかったんだ! すいません!!」


「……」


 泣きそうにする少女。

 ピンク色の短髪につぶらな赤いひとみ。

 見るからに優しそうな感じで。


「あれ……君、どこかで見たと思ったら……隣の子!?」


 自由席の時、隣の子だったあの子だ。

 すぐに無視されたやつ。


「……!」


 あの子は俺が言うとなにも言わずにすぐさま走り去った。


「ちょ、ちょっと待って!? 待ってってば!」


 しかし、俺を無視して走って行く。

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