第2話 可愛すぎるんだけどどうしたらいい!?
「……」
あまりの可愛さに見とれてしまう。
見てはいけない気がして少し目を逸らす。
「……遅刻の件はさておき、でも本当に助かりました。痴漢にあったのは初めてで怖かったんですけど、あなたみたいな人のおかげでなんとかなりました。ありがとうございます!」
「いえいえ……当然のことをしただけです……」
「本当にありがとうございます……」
ぺこぺこと頭を下げて来る。
仕草が凄く可愛い。
小動物みたいだ……
ていうかなんだこれ。なんだこの状況。
俺が褒められている。しかも超絶美人の人に!?
「……で、でもそうして君がここに。電車の中にいたんじゃないのか?」
「最初は怖かったのでそのままにしようと思いました。でもよくよく考えたら、私のことを助けようとしているのにそこに自分がいないのはおかしいって気がついて。そして、慌てておりました。だから、お礼が言えてよかったです!」
「……」
なんていい人なんだろう。
わざわざ言う必要なんかないのに。怖かったはずなのに。
誠実な人だ……
「それにさっきの人がどうなったのか知りたかったのもありますね。ちゃんと反省して、次からはしないと約束して欲しいです。そしたら許します!」
「……許しちゃうんだ」
「当たり前です。反省したら誰だって許します」
本当に優しい。
「そういえば聞きたかったんですけど、どうして私のことを助けてくださったんですか? 放っておいてもよかったのに」
「……うーん、なんて言ったらいいのかな……無意識に手が動いたというか見てもいられなくなったというか……」
正直に答える。
こればっかりは自分にもわからなかった。
でも、助けたのはいいことだと思う。
「そうなんですね……まあ、結局、入学式に遅刻してしまいましたけど!」
別に遅刻なんてどうでもいいですと笑いながら話す。
「ん? ちょっと待って。入学式ってことは君も高校1年生なの!?」
「ということはあなたもなんですか……てっきり、先輩だと思ってました。なら、同級生としてこれからも末永くよろしくお願いしますね」
「末永くって……」
あんまり聞かないぞ、そんな言葉。
「あ、そう言えば名乗るのをすっかり忘れていました。私の名前は、
「……俺は橋本誠だよ。よろしく」
軽く自己紹介をした。
犬倉さんというらしい。あんまり聞かない名前だった。
こちらこそ、よろしくお願いしますと言われると。
「あ、えっと……誠君。電車が来ましたよ。乗りましょう」
「お、おう」
目の前に電車が来る。
初めて女子に名前で呼ばれたので少し戸惑ってしまった。
時計をみるとは8時18分だった。これに乗って駅について、学校に向かっても8時40分にはなるだろう。
遅刻が確定した瞬間だった。
俺たちはその電車に乗る。
さっきとは違い、結構席は空いていた。そこに座る。
「はぁ……わかってはいるけど遅刻か……」
深くため息をついた。
さっきまで色々とあったので一気に緊張が崩れ落ちる。
肩の力が抜けた。
「そうですね。でも一緒なので大丈夫です!」
「なにその、赤信号みんなで渡れば怖くない理論。全然大丈夫じゃないよ。普通にアウトだよ」
「でも一人よりはましでしょう」
「それはまあ、そうだけどもさ……」
俺の人生にとって今日という日は相当に重要な日だった。
中学とは変わって、クラスの人気者になりたかったのに……
きっと今日からこの人と一緒に遅刻魔というレッテルをはられるに違いない。
ある意味では人気者になれるのかな……
「……そんなに思いつめたような顔をしないでください。誠君はいいことをしたんですよ。もしなにか言われるようなら学校のみんなに今日のことを話しましょう。そうすればわかってくれますよ」
「いや、いいから。そんなことは言わなくていいからね!?」
「……え、せっかく助けてくださったのに言わなくてもいいんですか?」
「恥ずかしくてたまらないから。絶対に言うなよ!?」
「そういうものなんですかね……」
「そういうものなんだ」
あまり言いたくない。
痴漢から女の人を助けたって聞こえはいいものの、やっぱりどこか恥ずかしい。
しかも俺のような奴には重すぎるし……
「そろそろ着きますね。学校が見えてますよ」
「ホントだ。入試の時以来だけどやっぱりデカいな」
電車の窓から学校が見えた。
校舎が大きく、分かりやすい。一瞬でわかったほどだ。
駅に着き、降りる。
どこにあるのか場所に戸惑ったが、なんとか駅のホームを抜けられた。
そして少し歩いて、学校の校門の前まで行く。
「正直にいうと凄ーく、入りずらい……」
「そうですね。私もすっかりなめてました。こんなにもプレッシャーがかかるものなんですね……」
「ホントだよ……」
目の前には大きな門があり、閉まっていた。
隣には入学式! と書かれた看板がある。
入口はここで間違いないと思うが、中に入れない。
「飛び越えるしかないのか」
「えええ……私こんな高い門なんか超えれませんよ!?」
「……その時は俺が手伝ってやるから」
「……ありがとうございます」
少し顔が赤くなるのが見えた。
やっぱり男の人に手伝ってもらうのは恥ずかしいのかな。
……でも今更取り消すことの方が嫌だし、やるしかないみたいだ。
俺が先に門を飛び越え、内側の中に入る。
「ほらいいぞ。手を門の上にかけたら、こっちに来れる。危なくなったら俺が支えるから安心していいぞ」
「で、では行きます……」
おどおどとしながら、手をかけ、足をかけ、こっちに来ようとする。
俺は上を確認しながら犬倉さんの手を握ってゆっくりと下ろしていく。
「あんまり上の方を見ないでくださいね。パンツが見えそうで怖いんです!」
「だ、大丈夫だ。できるだけ見ないように頑張る……」
すぐに上から目を逸らす。
見るなんてことをしたらさっきの痴漢魔と同じになってしまう。
そんなことを考えていると、犬倉の足が地面に着いた。
「ふう……なんとかなりました。手伝ってくださってありがとうございます!」
「おう。これで大丈夫そうだな」
一安心する。
何事もなく行けてよかった。怪我がなくてよかった。
「……でもなんだかいけないことをしている感じがして楽しかったです」
「……」
「さっさといきましょうか。早く着いた方がいいと思いますし」
ニコッと笑いながら歩いていく。
俺はその笑顔にみとれながらもついていった。
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