1-4 今はまだ夢
ある1つの道の前。そこは村が貿易で使う為の道。今はトロールが現れ使われていない。
セラと村の人々は道の前で、少女の帰りを待っていた。冒険者の姿をした銀髪の少女、アリア。
アリアがトロールを退治に向かった後、セラは村の人達の家に向かった。セラから話を聞いた村人達は驚いた。こうして、今アリアの帰りを待っていたのだった。
「アリアさん」
人一倍帰りを待つセラ。両手を組んで、無事に帰ってくるのを祈っているようだ。目には隠し切れない期待。同時に心配もあった。アリアがトロールを倒しに行ったのは、自分の話を聞いたからだと分かっていた。
すると道から人影が現れる。人影は近付いており、見る見るうちに鮮明になっていく。
セラは喜んだ。彼女の帰還を誰よりも望んでいた。
「アリアさん!」
セラが少女の名前を呼んだ。それが聞こえていたのか、人影は腕を上げ、手を振った。
アリアはセラと村人達の前までやってきた。表情は何処か疲れているように見える。
アリアも戦闘を終えた。その後に待っていた精神をすり減らす後片付けを行った。無理もなかった。
「ただいま帰ってきました」
セラと村人達の前で言葉を放つアリア。
村人達の心は騒いでいた。帰ってきただけでここまで落ち着かないのは人生において初めてのこと。無論それはセラも。村人達はアリアに問う。
「あの怪物は!」
「トロールは!」
村人達は興奮を隠せない。瞳は期待で満ちている。正直怖いくらい。
そんな期待で満ちている村人達に、アリアは答える。
「はい、倒しましたよ。……死体はちょっと見るに堪えない姿ですが」
最後だけ早口且つ小声で呟く。何はともあれ、トロールは倒した。村を脅かしていたトロールはもういない。あるのは死体だけである。
アリアの言葉を聞いたセラと村人達は黙った。最後の部分だけ聞き取れなかったが、関係ない。瞬間村人達、特に男が弾けた。
「「「うおおおおおおおぉ!!」」」
村人達が歓喜の叫び声を上げる。かなりの声量。あまりに唐突過ぎたので、アリアは両耳を塞ぐのが間に合わなかった。
「アリアさん! ありがとうございます!」
セラはアリアの両手を掴み、腕を上下に揺らした。アリアの生還とトロール撃破により、喜びが最高潮まで達している。
「!? いててて」
「大丈夫ですか!?」
アリアは表情を歪める。その様子に気付いたセラが腕を振るのを止めた。心配そうに見てくる。
さっきまでの歓喜は何処へやら。セラの声が聞こえた村人達は静かになった。
「あっ、実は背中をやられてしまいまして、でも大丈夫だと思います」
トロールと戦い、その際に投げ飛ばされた。背中はその時打ち付けられた。だから今も背中から痛みが走る。流石に無傷とはいかなかった。
アリアは大丈夫だと伝えたが、セラはそうとは考えていない。両手を離す。
「ちょっと待っていて下さい」
セラは自分の家に向かって走り出した。アリアは何がなんだか分からない。取り敢えず待つことになった。
数分後、セラは瓶を持って戻ってきた。
「アリアさん、これを飲んで下さい」
セラは瓶の蓋を開け、差し出す。瓶の中身は液体。緑色だった。
差し出されたが、アリアはこの液体について聞いてみる。
「あのセラさん。この緑色の液体、青汁みたいなのはいったいなんでしょうか?」
「ポーションです!」
「ポーション?」
緑色の液体の正体はポーション。アリアには青汁みたいな飲み物としか映っていない。
「さぁ、飲んで下さい!」
セラはポーションを勧める。アリアはポーションがなんなのか分からない。だが人の善意を踏みにじることも出来ない。疑問だらけだが、渋々受け取った。
アリアは匂いを嗅ぐ。葉っぱのような匂いがした。
「それでは――」
アリアは思い切ってポーションを飲む。飲み終えると、アリアの表情は別の意味で歪んでいた。
「に、苦い……」
ポーションは苦かった。アリアはそれで表情を歪めたのだ。
だがポーションを飲んで、背中の痛みが消えた。傷が癒えたのだと理解する。身体も軽かった。
「でもおかげで癒えた気がします。ありがとうございます、セラさん」
アリアはセラに感謝した。表情は微笑んでいた。
アリアの微笑みを見たセラは頬が熱くなるのを感じる。頬の色が赤かった。彼女の微笑みが美しかった。つい見惚れてしまう。その後は笑顔で応えるのであった。
私は今、セラさんの家にいます。椅子に座ってセラさんと向かい合いながら話をしていました。
それにしてもポーションの味が忘れられない。苦かったけど傷も癒えた気がする。多分そういう飲み物、いや薬なんだろう。
「アリアさんはこれからどうするんですか?」
セラさんから予定を聞かれた。正直働くこと以外考えていない。素直に言ってしまおう。
「そうですね。近くの国で働こうと思ってます。……お金がありませんから」
驚くべきお金の無さ。絶望的だった。働かなければ生き残れない。食事もままならない。
「それじゃあ、『ブリテニアド王国』に行きませんか?」
「『ブリテニアド王国』?」
聞いたことがない。どんな国なのだろうか。
「すみません。聞いたことがなくて」
「じゃあ簡単に説明しますね」
セラさんが説明してくれるそうだ。異世界の知識が無い私からすると、本当に助かる。
「ブリテニアド王国は私達が貿易で使っている国です。王国には冒険者協会があるんですよ」
「なるほど……」
冒険者協会。少なからず興味はある。冒険者になればお金も入ると思う。働く場所として最適な所かもしれない。
「分かりました。そのブリテニアド王国に行きたいと思います」
これからの方針が見えてきた。取り敢えずはブリテニアド王国に行こう。働かなればいけないし、願ってもないチャンスだ。
「では、一緒に行きませんか?」
ここでセラさんから誘いが来た。無論断る理由は無い。だけど理由は聞いておこう。
「良いんですか?」
「私達もトロールがいなくなったことで貿易を再開するんです。なんなら、今から馬車を使って王国に行くつもりです」
村の食料は僅かしか残ってない。だから貿易を再開して、食料を確保しなければならないんだろう。
そう考えるとやっぱり恩返が出来て良かった。
「分かりました。案内をよろしくお願いします」
私はセラさんの提案に乗った。
私は装備を身に付けて、セラさんと共にブリテニアド王国に向かった。村人達は私とセラさんを送り出してくれた。
今、セラさんは馬車に乗っている。荷台には貿易で使う商品があった。私は馬車の隣を歩いていた。
ちなみにトロールと戦った場所は通り過ぎた。血溜まりもすっかり地面に吸われていた。
「アリアさんきつくないですか? 荷台の最後尾なら乗っても良いんですよ」
セラさんが気遣ってくれる。正直応じたいけど――
「いえ、大丈夫です」
私はセラさんの提案を断った。荷台に乗るのは申し訳ないと考えた。大丈夫なんて嘘を吐く。
セラさんには言っていないけど、私は全身が痛かった。
それから私とセラさんは黙々と道を進んで行く。晴れており、風が気持ち良い。
私はセラさんに話し掛ける。
「セラさん」
「なんですか?」
私はトロールを倒して、村に戻ってきてから考えていたことがあった。
「まだ夢の話ですが、私は騎士になりたいです」
これはまだ夢の話。理由も大層なものじゃない。それでも口は動く。
「私、村に来るまでは夢なんて無かった。目的はありましたけど、夢は考えたことすらありませんでした」
転生したことが分かった。
だから
これは目的だ。夢じゃない。
「でも、セラさんと会って、騎士って呼ばれました」
「あの時は誤解してごめんなさい」
セラさんは謝罪する。でも私は全然気にしてなんかいない。寧ろ、感謝していた。
「いえ、セラさん。私は寧ろ感謝しているのです」
「ヘ?」
「騎士になりたいと夢を与えてくれました。こんな勝手な理由ですが、セラさんのおかげで夢を持てたのです」
誰かを守りたいとかは無い。本当に自己満足の理由で夢を決めた。
それでも騎士になりたいと思ったんだ。誤解からでも、誰かに必要とされたのは悪くなかったから。
「私は信じてます。アリアさんならきっと騎士になれます!」
私の話を聞いてセラさんは声を上げる。セラさんは笑顔だった。本当に私が騎士になれると信じている。
「私、頑張ってみます。どれほど時間が掛かっても、絶対に騎士になります」
「騎士になったら報告して下さい! 村に自慢するので!」
「分かりました」
まあ、こんな感じで会話は終わり。
私は騎士になるぞ! どうやったら騎士になるか知らない。だが絶対に騎士になる。それが私の夢だから。
物語はまだ始まったばかりである。
転生したので騎士になります アンリミテッド @Anrimidetto
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