1-3 トロールとの戦い
私はセラさんから話を聞いた。村がトロールという怪物の所為で困っているらしい。
そんな時私は何を思ったのかトロールを倒すと言ってしまった。セラさんはお願いしますと頭を下げた。私はすぐに頭を上げるよう促した。
その後私とセラさんは自己紹介をした。最初「騎士さん」と呼ばれた。理由は私の姿だ。でも少女なんですが。
見ず知らずの私を助けてくれた。誤解であろうとも、騎士と呼んでくれた。応えたいと思った。それが私の恩返しだと信じて。
私は装備を身に付けて、村を出た。そのまま村が貿易で使っている道を歩んでいる。
村が貿易で使える道は1本と限られている。そこにトロールが現れた。だから村は貿易が出来ず、食材が手に入らない事態に陥ってしまった。トロールがいる限り、村は道を使えない。
トロールを倒す為に、私は進んでいた。
「はぁ……」
でもほんの少しだけ後悔していた。
理由はセラさんとの会話。何故あんな自信満々に宣言してしまったのか。しかも呼び捨てした。更に格好いい台詞付き。
「まだあの緑色の怪物しか倒してないのに」
不安になってくる。あの緑色の怪物はなんとかなったが、今回も上手くいくとは限らない。考えたくないけど、最悪ここで終わるかもしれない。
「でも、応えたいんだよね。逃げるなんて私が納得しない。恩返しくらいしないと気が済まない」
セラさんに応えたい。この気持ちに嘘偽りはない。
あの緑色の怪物を倒したんだ。トロールという怪物だって、なんとかなるはず。そう自分に言い聞かせる。
でもなんか、肝心なことを忘れているような……
時間は夜。夜空には沢山の星々が輝いていた。月明かりが道を照らしている。
私は時々夜空を見上げていた。
「綺麗」
輝く星々に目が奪われそうになる。ずっと見ていたいほど新鮮だった。前世ではあまりこの景色は見れなかった。
「出来る事ならずっと見ていたい」
でもそれは叶わない。ここにいる理由は恩返し。星々と月明かりの下で戦いが起きると、
「っ!」
夜空を見上げて進んでいたけど、足を止めた。何かが来る。
木々が揺れていた。足音が聞こえてくる。その足音はどんどん近くなってきた。
私は剣を抜いた。絶対トロールだ。木々を抜けて、目の前に現れた。
その姿を見た私は驚いて、口に出てしまう。
「デカすぎだろ」
それが進む度巨大な足跡が残る。巨大な身体をした怪物が木々を抜けて、少女の前に現れた。
『トロール』。茶色の身体。下半身は布1枚巻かれている。太い腕。何より巨体だった。
目の前にいる銀髪の少女アリア。その身長の倍はあった。
アリアは思わず声が出てしまった。想像以上に大きく動揺してしまう。勝てるかすら怪しかった。
トロールはアリアの姿を見るなり、不気味な笑みを浮かべた。
気付いたアリアは緑色の怪物、ゴブリンと同じみたいだと気付く。
「嫌な感じだ」
負けたら碌なことにならないと想像がついた。
遂にトロールが動いた。丸太のように太い腕を、アリアに向けて振り下ろした。
アリアは横回避を行う。トロールの動きは遅く、回避することが出来た。先程アリアがいた場所から土煙が舞う。
今度はアリアの番。剣を両手で構え、トロールに接近する。トロールの動きは遅く近付くことは上手くいった。そのままトロールの足を切る。だが――
「浅い! 私の剣じゃ擦り傷しか出来ないか」
アリアは剣でトロールの足を切るが、擦り傷を残すことしか出来なかった。巨体を支える足なのだ。腕程ではないが、足も太かった。トロールからすれば、ちょっと怪我した程度だろう。
トロールは再び腕を振り下ろした。アリアは後ろに下がった。攻撃は当たらなかった。
「攻撃は遅いから避けれるけど、決定打が与えられない」
今の攻防を現すなら泥沼だ。アリアは攻撃しても擦り傷しか出来ない。全然倒すには至らない。トロールの動きが遅いのが幸いして避けれている。
逆にトロールの攻撃を受けたら倒れてしまうかもしれない。
アリアは避けることが出来るが力が足りない。トロールは力こそあるが、動きが遅かった。
「確実なのは首を切ることだけど」
跳べるか、と考える。トロールの身長は倍だ。首に目がけて跳べるか分からない。それなら足を切ってバランスを崩した方が現実的だろうが、それは無理だった。バランス崩して、膝を地面に着けることに成功しても、結局跳ばなければならない。
トロールの巨体は伊達じゃなかった。
「それでも」
アリアはセラに恩返しがしたい。今出来る事は戦うことくらいだ。だから、退くことだけはしたくない。必ず倒すまでは退けない。諦めたくなかった。
アリアは再び足を狙う。切って擦り傷だったので、今度は剣を突き刺した。
深く刺さった剣。トロールは痛みで吠える。――だがそれだけだった。
ここでアリアの脳内が騒ぎ出す。
直感に従い剣を抜こうとする。しかし深く刺さった剣は簡単には抜けなかった。時間をかけて剣を抜いたアリア。だがあまりにも時間を作り過ぎた。これが災いする。
トロールは巨大な手でアリアを掴んだ。
「!? これは!」
アリアはトロールの手の中で藻掻くが意味はない。トロールはそのままアリアを握り締め、腕を上げた。
アリアの直感が更に危険信号を出す。そしてこれから痛みが走ることを告げた。
トロールはアリアを地面に投げ付けた。
「あぐっ!?」
背中から打ち付けられ、全身に痛みが走る。これほどまでの痛みをアリアは感じたことがない。ゲームで例えるなら、今ので体力の半分は減った。
「痛いな。でも」
それでも剣は握り締めていた。離すことはなかった。
「まだ動ける」
アリアは立ち上がり、両手で剣を構えた。目の前にいるトロールは勝利を確信していた。油断している。
「私がやるんだ」
これ以上トロールを放置するのはいけない。投げられた時に分かった。
村人は戦う力を持たない。トロールが村に進行したら、間違いなく壊滅する。圧倒的な巨体と力で蹂躙するだろう。なら村に進行する前にやるべきだ。
「全力で、倒す!」
アリアの頭に流れ込んでくる。それは自分の身体能力を強化する方法。この方法を使えば、間違いなくトロールを倒せる。直感がそう言っていた。
「……なるほど。大体だけど分かった」
ほんの少しだけ曖昧だった。でもやるしかない。倒せるのならこの方法に全てを託している。
身体中に意識を回す。
トロールは剣を構えているアリアを手で薙ぎ払おうとする。
体力を半分持ってかれている。次当たったら動けなくなるだろう。命は助かるが、その先の未来は補償出来るとは思えない。人としての尊厳を奪われるかもしれない。
だから捨てる。
「躊躇は捨てた」
自分を鼓舞し、本気で倒す言葉を吐いた。
トロールはアリアを薙ぎ払おうと腕を横に振るう。勢いで土煙が舞った。痛みが走る。
――だがそれはアリアではなく、トロールだった。
トロールの右足が深く切られていた。血が沢山出てくる。擦り傷程度しか残せなかったアリアが、深い傷を負わせた。下手に動かせば右足は2度と使えなくなるだろう。
アリアも振り回されそうになった。力が漲る。動きも速い。初めて使う力にまだ慣れていない。でもこれなら勝てる。強化された身体に必死に喰らいつく。
アリアが動き出した。
アリアが強く地面に踏み込むと一気にトロールとの距離を縮め、左足も深く切る。
トロールの左足からも血が流れる。最早バランスを保つだけでも必至だ。それでもトロールは目の前に現れたアリアに、拳を振り下ろした。
遅かった。アリアは余裕を持って横に回避する。トロールの拳は地面にぶつかり、クレーターを作った。拳を引き戻そうとするトロールだがアリアはそれを許さない。
アリアは丸太のように太い腕を、力を込めて剣で切り裂いた。
トロールは悲鳴を上げる。切り裂かれた腕を上げ、視線を移した。更にバランスが崩れて、両膝が地面に着く。
この時トロールはアリアから視線を外した。アリアのこの後の行動は妨害なしで行われる。心配もなかった。
両足に深い切り傷を負い、腕を切り裂かれた。トロールは遂に怒り心頭になる。自分を追い詰めたアリアが許せない。
トロールはアリアを倒す、いや殺す為に地面に視線を移す。だがアリアの姿は無かった。焦って姿を探す。もう何もかも遅いことに気付いていなかった。
「やああああああぁ!!!」
アリアは跳んでいた。トロールと同じ高さを跳んだのだ。
アリアは剣でトロールの首を切り裂く。そして身体を一蹴りして、地面に着地した。
同時にトロールの首が落ちる。顔の表情は切られる前で止まっている。首を無くしたトロールの身体はうつ伏せで倒れる。断面から血が流れた。
「勝つことは出来たけど、見てると気分悪くなりそう」
目の前の光景に引く。アリアはトロールを倒した。
うわぁぁ……自分でやったけど見てるだけで気分が悪くなる。確実に倒すなら首を切るのが一番だと思ったけど、もうちょっと良い方法が、無いかぁ。
嗚呼、早く村に戻ろう。見ていると気が狂いそう。これで村は道を使えるようになった。私の恩返しも出来たし。
「うん? 使う、あっ……」
このまま帰って村にトロールを倒したことを伝えれば、きっとこの道を使う。そしてトロールの死体を見ることになってしまう。
「これ、邪魔だよね」
トロールの死体は道に倒れている。巨体だから進行の邪魔だ。それに見たら、多分発狂するかもしれない。片付けるのも一苦労だと思う。肉体的にも、精神的にきついはず。
「嫌だけど、心底嫌だけど! やるか」
まだ強化は続いているし、もう少しだけ頑張って。……トロールの身体を普通に持てる。凄いな私。今日の感覚は忘れないようにしよう。またトロールやそれ以上の脅威がいるかもしれないから。
よし、トロールが現れた道横に退かした。流石に血は無理だったけど。今度こそ戻ろう。セラさんが待ってる。
処理で精神がすり減った気がするけど、まぁ良いでしょう!
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