第19話 #釣る

「もので釣るのはいいけど、何で釣ればいいと思う?」


 俺には愛衣羽の好物とかまだ分かんないし、ここは視聴者に聞いた方がいいだろう。いずれはこういうことがあっても相談せずに解決できるようになりたいが、今はまだ何もできない不甲斐ない姉だ、だからこういう時は恥を忍んで誰かに頼ろう。俺の恥より愛衣羽の方が大事だ。


:肉!

:酒!

:じゃがいも

:トマト

:ピーナツがすき


 食べ物ばっかだけど愛衣羽が好きなもんってこのコメント通りなのか。昔は何でも好き嫌いせずに食べていて嫌いなものも無かったけど好きなものもなさそうだったな。


「よし、とりあえず試してみるか。ちなみにこれでうまく行ったら配信切ってご飯にするけどそれでいいか?」


:ええよ

:いってら

:がんばえー


「よし、行ってくる」


 俺は配信部屋を後にして再び愛衣羽の部屋に向かった。未だに愛衣羽の部屋のドアには鍵がかかっている。俺はそのドアをノックして声をかけた。


「お、おーい。愛衣羽? そろそろ晩飯にしねえか……?」



――



「駄目だったわ……。返事すら来ねえ」


 成果は何もなかった。やっぱウチの妹は食いもんにつられるような奴じゃ無かった。そうだよな、もし愛衣羽が食べ物につられる様なやつだったらどこかの男に簡単についていきそうだしむしろこれでよかったんだよな。うん。


:どんまい

:そんな日もあるさ

:拗ねてる妹って可愛いな

:ヒキニートになる前に出してあげないと

:てかあいは姉御の声聞こえてるんか?ヘッドホンしてる可能性は?

:せやな、メッセージ送ってみたらどう?


「確かに、さっきメッセージ送ろうとして送って無かったな。送ってみるか」


:がんばれ

:電話もあり

:いっけえええ


『そろそろメシにしようぜ』



―――

五分後―



「既読もつかねえ」


 どうしよう。これで電話にも出なかったらマジでどうしようもなくなる。これからずっと引きこもるのだろうか。そうしたら俺は妹の家に居候しながら妹を部屋に押し込んでわが物顔で家に居座るクズ姉貴ってことにならねえか? てか、それ以前にまた愛衣羽の顔が見れなくなるのはマジで辛いぞ。


:あれ? これやばい?

:寝てるだけだったりしないかな

:マジでひきこもりやん

:反抗期が遅れてやってきた

:このままだと俺たちもあいちゃんの配信見れないんじゃないの

:それはやばい

:推しが引きこもりになった件

:えっ、配信見れないは洒落になってないよ

:明日から何のためにいきればええんや

:辛い辛い

:頼む電話に出てくれ

:多分でんわ


 コメント欄が何か言っているが文字は見えても内容が認識できないくらいには焦っている。愛衣羽にコールをかけているスマホを持つ手が震える。これででなかったら終わりだ。


頼むっ。





おかけになった電話番号は、げんざプッー


「終わった」


:電源切られてら

:詰む詰む

:やばいよやばいよ

:正直ネタかと思ってるがガチなんか?


「どうしよう。かんっぜんに終わった。マジでどうしようもない」


:どーしーよーもなくー

:今を生きるな

:ネタ走っとる場合ちゃうぞ

:これで配信しなくなったらどう責任取ってくれるんですか?

:いや、のんの姉御のせいにすんなよ

:でも実際原因は姉御だし

:ちょ、喧嘩すんなよ


 どうしよう。コメントも荒れてきた。配信切った方がいいのか? でも今切ったところで何の解決にもならないし、まずはどう責任取らなきゃいけないか考えないと。まずいことになる。


ガチャ


 あれ? 今、鍵が開く音が。

 後ろを振り向くと開けっ放しのドアの方から足音が聞こえてくる。まさか


「ん~やっと終わったわ。姉さん今配信中?」


 ドアから入ってきたのは何かが終わった後なのか背伸びをして体の緊張をほぐしている愛衣羽だった。


「愛衣羽っ!!!」

「ちょ! 姉さん?」


 俺は椅子から立ち上がり愛衣羽に抱き着く。愛衣羽はいきなりの事に驚いているようだったけど腕はしっかり俺の後ろに回してくる。


「良かった。ほんとによかったぁ」

「一体どうしたのよ」


 俺は一端愛衣羽から離れて配信しているパソコンの前に戻り一から説明をした。


「なるほど、それで私が拗ねたまま引きこもったとねぇ。一体何歳だと思ってるのよ」


:3ちゃい

:結構覚悟してたぞ

:誤解でよかった

:流石にね


「じゃあ結局なにしてたんだ?」

「そうね、配信切る前に報告しときましょうか。姉さんの3Dが完成したからLAIにテストしてもらながら調整してたのよ。ビデオ通話でね」


:うおおおおお

:来たあああ

:マジで速い

:ここでも使われるLAIママ

:いつもの雑用

:ほんと扱いが雑なんだよな

:でも本人は姉御の姿になれて興奮してそう


「てことで切るわね。おつあいー」


 愛衣羽が配信を終了する。俺はその姿を呆然と見ていた。


「も、もう出来たのか?」








ー-

配信中に愛衣羽の名前読んじゃってますが、視聴者の方も大分混乱してて気にして無いのと活動名があいなのであまり気にならなかったってことで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る