第17話 プロテインかよ

 初めてのトレーニングジムは俺には来る意味が無いことが分かっただけだった。何なら俺にここを紹介した葉月もここに来る意味が無かった。


「じゃあこれからどーすんだよ。俺も葉月も意味ないんじゃもうやること無いだろ」

「いや、一つだけあるぜ」


 葉月は俺に「ついてこい」といいジムの奥に入っていく。俺はそれに従って奥に入っていく。入っていく場所には「staff only」のボードがかけてある。勝手に入っていいのか? それとも葉月はここで働いている? いや、葉月に声かけられたときは雑誌の撮影だったしここで働いているわけでは無いだろう。


「おい大輝さん、見てただろ? 野乃羽が一番重いのあげたぞ」


 大輝さんと言われた人は何枚ものモニターの前で筋トレをしていた。ダンベルを上げ下げしながらモニターを眺めている。葉月が話しかけたことで大輝さんはこっちを見た。葉月同様凄い筋肉だ。


「見てたぞ! 凄いな! その細腕に筋肉があるようには見えないんだけどな、びっくりしたよ」

「ど、どうも」


 大輝さんはダンベルを置くと笑いながら立ち上がった。やっぱ全身の筋肉がやべえ、あんま筋トレの事良く分かんねえけど結構鍛えてる方なんだろうな。


「で、なんでこっち来たんだ? 何があるんだ?」


 さっき葉月が言ってた意味ってのが分からない。ここに来る意味? 意味ってなんだ? この人がなんか関係あんのか?

 疑問に思って葉月に聞いたら葉月は黙って大輝さんを指さした。大輝さんの方を見ると両手に飲み物を持ってきて俺たちの前に置いた。


「ほら、これが一番重いやつを持ち上げた時のご褒美だ! この店人気のプロテイン。葉月さんの分はおまけだな」


 ってプロテインかよ。もうちょっと無難なやつねえのかよ初めて飲むぞ。ジムってこんなもんなのか?


「それで葉月さん。どこでこんな逸材見つけてきたんです? こんな人簡単に見つからないでしょ」

「本当に偶然だったな、撮影の仕事でモデルが遅刻して来なかったから近くにいた外見いいやつに声かけたら野乃羽だったんだ。最初は男だと思ってたがな」

「そうですね、最初は凄いイケメンが来たなと思ってびっくりしましたから」


 大輝さんも俺が男だと勘違いしたみたいだ、中に入って葉月から借りたトレーニング用の服に着替えてから気付いたと言われた。


「俺も葉月さんの事最初は勘違いしましたよ、口調とか態度とか全然ちがったし」


 最初話しかけてきたときの葉月は普通の社会人のような感じだった。仕事してたし当たり前だろうけど、仕事が終わってからはがらりと変わったからな。


「アタシ仕事中はああするようにしてんだよ。このままだと委縮するやつとかいるし、初対面だとなおさらな」

「そういうことかい。葉月も大変だな」


 確かにガタイが良い人を前にすると圧を感じる人が多いし丁寧にいかないと仕事どころじゃなくなるのかな。そんなことでビビるやつもいるもんな。


「野乃羽はそういう経験無いのか? 野乃羽もぱっと見すげえイケメンだろ。男と間違われることも多いだろうし、普通の女として見られたいと思ったこともあるんじゃねえのか」

「一時期思ったことはあるな」


 大輝さんが席を立って部屋を出ていく。流石にこの会話に男は居づらいだろうし、気を使ってくれたのかな。挨拶をしてトレーニングルームの方に向かって行った。


「いや、大輝さんに気を使ってもらって悪いけどこんなとこで話す事じゃ無くねえか? 初めて遊ぶってのに暗い話してどうすんだよ」

「それもそうだな。悪い」

「だいたい始めていく場所がジムってなんだよ。もうちょっと無難なとこあるだろ!」

「それは野乃羽も楽しそうだったしいいだろ。そのプロテインもうまかっただろ?」

「そうだけど……」


 今日このプロテインのために来たと言って満足できるくらいには美味かったな。プロテインって結構いいな、今度買ってみよう。


「それじゃあ今度は野乃羽が場所決めてくれよ」


 俺はまだこの辺りの事はよく知らないけど、愛衣羽に聞けば何とかなるか。


「おう、いいぜ。楽しみにしとけよ」

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