第12話 手紙
写真を見終わった俺たちは昼飯の準備をしていた。今日は美緒もいて準備を手伝ってくれるそうだ。美緒の手料理が好きな俺にとっては嬉しいことだった。俺がバーで働いていた頃にはよく作ってもらっていたことを話すと愛衣羽は嫉妬心を出していたが、おれがそれ程美味いという料理に興味がわいたようでもあった。
ちなみに写真はすべて愛衣羽がもらい棚にしまっていた。その内写真立てを買って飾るとも言っていた。それは恥ずかしいからやめて欲しいと言っても愛衣羽は聞いてくれなかった。
「そういえば美緒は何のために来たんだ? この写真持ってきただけなのか?」
「お前は意味がなきゃ来ちゃいけないとか言う気なのか?」
「い、いや。そうは言わねえけどさ」
この家に来るには結構時間がかかるはずだ。だから何かあると思ったんだけどこういう聞き方をするとからかってくるのが美緒だって忘れていた。美緒は少し困った俺を見て軽く笑った後、鞄から手紙を取り出した。
「俺が今日ここに来た理由はこれだ」
「ったく、からかわずに早く言えよ。手紙って誰かr―」
「姉さん? どうしたの? え、これって」
その手紙は俺たちの母親、夏目 栞の名前が書いてあった。
「お前がウチから何も言わずに出て行ったのは別にいいんだがな。元々ここにいることも分かっていたし何やってるかもわかったからな。VTuberだっけか?」
俺はうなづいて肯定した。バーの客にVTuberをよく見るっていう客がいたからな。多分そこからバレたんだろうし美緒なら俺と愛衣羽が一緒にいるところを見てわざわざ連れ戻しに来る奴でもないしな。来るとしてももう少し二人でいる時間をくれてからだと思う。そうしたら後はこれくらいしか理由も無いか。
「昨日これが届いてな。お前たちの邪魔はしたくなかったから持ってくるか悩んだんだが流石に母親からの手紙をお前らに見せないわけにもいかないと思ってな」
「すまねえな」
俺は手紙を開きながら美緒に謝った。美緒には出会った時から迷惑をかけっぱなしだ。いつかちゃんと恩を返したいのだが未だに甘えてばっかりだな。
手紙は俺に対して書いたもので、内容は帰ってきて早く結婚しろというものだった。俺のことを心配する様子はなくとりあえず金だけ手に入れればいいみたいな感じだった。
「『あなたの話は後で聞いてあげるからとりあえず帰ってきて結婚しなさい。』……相変わらず自分の事しか考えていないわねこいつは。どうせ結婚だけさせて話なんて聞く気も無いでしょうに。というか結婚してから話すとかもう遅いのよ」
愛衣羽の言う通りだ。俺が家にいた時も話は後で聞くからこれを先にやれと言われてやり終わるころにはもう別の事をしていて俺の事を聞くことは無かった。あいつは未だにこのやり方で俺をだませると思っているようだ。ずいぶんとなめられたものだ。
「それでどうするの? まさか結婚しに行くとは言わないわよね」
「当たり前だろ、何のために逃げてきたと思ってるんだよ。とりあえず無視でいいだろ」
「あの人たちは俺のところしか連絡先知らないからまたうちのバーに来そうだな」
「あ……」
俺と愛衣羽の声が重なった。考えていなかったけれど俺が無視するとまた美緒に迷惑をかけるのか。それならやっぱ返事しないといけないのか? ど、どうしよう。
「しょうがねえな。俺からお前らのお母さんにこちらも野乃羽とは連絡が取れなくなってます的なこと言ってごまかしとくから無視しときな」
「すまねえ、ありがとな」
これでまた美緒に恩が増えちまったな。
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