第2話  妹の仕事

 俺は愛衣羽からVTuberについての説明を受けた。


「つまり俺の代わりに絵を画面に映して動画を投稿したりするってことか?」

「ざっくり言うとそんな感じだね。それで私のチャンネルで一緒に活動して欲しいんだけどどうかな?」

「つっても、勝手とか分かんねえぞ?」


 妹の手伝いをしてやりたいのは山々だが、全く知らない世界だ。変なことして逆に妹の邪魔になるのは避けたかった。せめてどんなものか自分の目で見てから決めたかった。


「今日も私は配信するつもりだったからさ、とりあえず見てから決めてもいいよ」

「分かった。そうするわ」

「じゃあ準備するから待っててね」


 そう言って愛衣羽はパソコンを起動した。しばらくして愛衣羽に似た女の人の絵が画面に映し出された。似てると言っても髪型や髪色、目の色等は全く違う。水色を基調にした清楚な感じのイラストだ。

 ちらっと愛衣羽のアカウントが見えた。登録者は60万を超えている。多いな、まあ愛衣羽は可愛いし当然か。


「それじゃあ今から配信するから姉さんはそこで見ててね、できれば静かに見てほしいかな」

「俺の音乗るのはまずだろうしな。分かったよ」

「じゃあ始めるよー」


 そう言って愛衣羽は配信を始めた。


「みんなー、こんあい。清楚な人形、人形ひとかた 愛よ」


 愛衣羽はマイクに向かって喋り出した。配信では偽名を使うようだ。流石にネットに実名を晒すような真似は流石にしないか。


「今日は皆と雑談をしていくわ」


コメント

:こんあいー

:今日は雑談か

:久々だね

:今日も声が聞けて幸せ

:自分で清楚って言うな

:↑いつも言ってるじゃん


「そうだぞ、私は清楚よ」


 愛衣羽は配信に来ている視聴者と雑談を繰り広げている。時折笑ったりして随分と楽しそうだ。俺は実家ではあまり見られなかった愛衣羽の笑顔が見られて嬉しかった。話している内容に一部分からない所があったがそれは後で聞けばいいだろう。


「以上、私がボッチでカップルの多い店に行った話でした―。そろそろ今日の配信は終わろうかな」


コメント

:ただの悲しい話だった

:俺は人生で行くことのない店の話だったな

:もう終わりか

:おつあいー


 最後に愛衣羽が自分の恥ずかしい話をしたところで配信を終えるようだ。というか愛衣羽は普段何をしているんだ?


「おっと、その前に告知を。姉さん姉さん」


 いきなり愛衣羽がこちらを見て話しかけてきた。


「喋っていいのか?」

「ちょっとだけね」


 どうやら俺の声を配信に乗せてもいいみたいだ。最初に話すなと言ったのはもういいのだろうか。


「みんなーこの人が私の姉さんだよ」

「よ、よろしく」


コメント

:姉様!?

:お姉さんいたんだ

:声かっこいい

:ハスキーボイスってやつか

:惚れたわ


「これからは姉さんと一緒に活動するねー詳しくはまた今度! じゃあねーおつあいー」

「え? ちょっ」


 愛衣羽はそのまま配信を切ってしまった。俺は強制的に一緒に活動をすることになってしまった。


「野乃羽の配信見て決めていいんじゃなかったのか?」

「ごめんね? どうしても姉さんと活動したくて」

「ったく、しゃーねーな」


 こう言われると俺は弱い。昔から愛衣羽だけはどうしても甘やかしてしまう。当の愛衣羽は俺がVTuberをやると決めたことが嬉しくて笑っていた。実際は無理やりやらせたようなものだが。

 その後、俺たちは夕食と入浴を終え、一緒のベッドに入っていた。


「ふふ、姉さんと一緒に寝るのは初めてだね」

「あいつらは昔から俺らを別々に育てようとしてたからな」


 両親は二人をそれぞれ隔離して育てようとしていた。一緒にいると子供同士遊ぶと思ったのだろう。だから俺たちが話せるのは学校で偶然会った時だけだった。その少ない時間でも愛衣羽は俺に積極的に話しかけてくれた。おかげでいまでは仲良し姉妹だ。


「姉さん、これからはずっと一緒に居てね」

「おう、約束する」


 これからは大事な妹を絶対に一人にしない。俺はそう誓いながら愛衣羽の頭を撫でた。


「姉さんはいつになっても姉さんだね」

「当たり前だろ」


 ゆっくりと頭を撫でながら俺がここに来るまでの愛衣羽の話を聞いた。家出をした愛衣羽は俺の元に来るかまず考えたが、俺らが一緒にいるとまた両親に何かを言われて俺に迷惑をかけるかもしれないと思ってやめていた。

 家出する頃にはVTuberの収益だけで暮らせるだけの稼ぎがあった。その後はVTuberとして活動を続けながらのんびりとした生活を続けていた。現在は幸せな生活を送っているようだ。


「これで姉さんがいれば完璧だなーって思ってたから今回の事は本当にラッキーだったよ」

「俺もだ、こうして愛衣羽と一緒に居られるのは嬉しいぜ」


 愛衣羽は照れたように笑った。そのまま俺を抱きしめてくる。今でも愛衣羽は俺の腕にすっぽり収まる。


「そういえば俺もVTuberやるならイラストが必要なんじゃないのか? そうするんだ?」

「それは大丈夫、ママが既に描いてくれてるから」

「は? なんであいつが?」

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