元不良の半バーチャルライフ

瀬戸 出雲

第1話 私と一緒にVTuberやろうよ

 「チッ、なんで俺がこんなことになってんだよ」


今日の彼女はとてもイラついていた。いつかこうなることは分かっていたが予想できたことだけで済まず、予想外のことが起きどうしようも無くなったからだ。


「そんなの知らないわよ。姉さんがいつか親子の縁を切ることは予想できていたけどそれは聞いてないわよ」

「俺だってまだ信じられねえよ」


 目の前に置かれたオレンジジュースを飲み干しながら文句を言う。いつもなら酒を飲んでいるはずなのに今日は妹に止められていた。今日飲むと止まらなそうだかららしい。


「なんで俺が結婚しなきゃいけないんだよ!」


 夏目 野乃羽は親に虐げられて生きてきた。生まれた頃から完璧を求められ、失敗をするたびにご飯を抜かれる日々。親の期待通りに物事を進めてもそれが当たり前で褒められることもない日々。それでも彼女の期待に応えたくて努力を続けていた。

 しかし彼女の妹、愛衣羽があらゆる分野で野乃羽を抜いていった。次第に親の期待は愛衣羽に向かい野乃羽は空気のように扱われた。その結果、野乃羽は親に反抗し、不良とつるむようになった。

 その結果親は彼女のことを諦め愛衣羽に完璧を求めた。しかし愛衣羽もその期待が嫌になり、姉より要領のいい彼女は大学を卒業した途端にうまいこと実家から逃げだした。

 それから数年後、両親は自分たちの将来を養う人がいないことを心配し、先に家を出ていた野乃羽の婚約者を勝手に決め、無理やり家まで連れ戻してきた。相手は小金持ちのボンボンで偶然俺の仕事先で俺を見かけて一目ぼれしたらしい。それから野乃羽の親を金で釣り婚約を勝手に決めていた。だから野乃羽は絶縁状を突きつけ実家から逃げ出した。




 縁を切られたことは良かったが住む場所が無くなった野乃羽は唯一仲の良かった妹の家に向かうことにした。今仕事場に戻ってもまた連れ戻されるだけな気がする。


「クッソ、遠いな」


 愛衣羽は親と離れるために田舎から出て都会に住んでいた。野乃羽は早速新幹線に乗り愛衣羽の家に向かった。インターホンを押し中から妹が出てきたが、妹は実の姉の事が分かっていないようだった。もう妹に合うのも数年ぶりだから仕方のないことなのかもしれない。


「どちら様ですか?」

「俺だよ、野乃羽」

「ね、姉さん?」


 その後、何があったか説明をした。高校の頃とはまた雰囲気が変わっているが、野乃羽だということはすぐに分かってもらえた。両親が自分の娘に強く当たっていることは実の娘しか知らなかったからだ。両親は他人の前では良い親を演じていたから、その話をすればすぐ俺だってわかる。

 説明を終え、今に至る。


「悪いな、お前に迷惑をかけることになる」

「それは良いよ。今の姉さんだとお金も稼げないしね」

「今の仕事場も多分もう行けないしな」


 今までの仕事先に行っても野乃羽が仕事させてもらえるか分からない。今ごろあの親が仕事場まで顔を出してるかもしれないからだ。


「姉さんは今まで何の仕事をしてたの?」

「バーテンダーだよ」


 ぐれて毎晩仲間と遊び回っていた野乃羽はバーのマスターに声をかけられ仲良くなりそこで働かせてもらっていた。野乃羽はすぐその店の店員や常連と仲良くなり楽しく仕事をしていた。その中でもよく野乃羽は女性からのアプローチを受けていた。


「姉さんはイケメンだもんね」

「どうせお前と違って可愛くねーよ」


 野乃羽はぐれた時髪を切ってから女性にもて始めた。高校では可愛い妹と並べて王子様姉とお姫様妹と言われていた。野乃羽が女性に、愛衣羽が男性に告白させる日々が続いたのだ。二人とも誰の告白を受け入れることは無かったが。


「じゃあさ、今姉さんは暇なんだよね?」

「そうだな、まあ何とかならないか考えてみるわ。それまで家事は任せな」


 野乃羽も一人暮らしをしていた時があるので一通りの家事は出来る。何もしなくて妹の邪魔になるだけなのは嫌だからせめて家事だけはやろうと思った。


「それならさ、私の仕事手伝ってくれない?」

「いいけど、俺にもできるのか?」


 愛衣羽は野乃羽より優秀だから野乃羽は自分が仕事を手伝って愛衣羽の邪魔をするのではないかと不安を感じる。野乃羽にもできる仕事があるのだろうか。野乃羽は邪魔にならないのならぜひとも手伝わせて欲しいと思う。妹のヒモにはなりたくなかった。


「姉さん、私と一緒にVTuberやろうよ」

「ん? 何だそれ?」

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