第42話 私はエンジニア

「やっと目覚めたわね。コーンスープでいいかしら。」

「あ、ああ…。」


 目覚めた鷲尾は頭が真っ白だった。グレートパピヨンを止めるため、白く発行した体はまだヒリヒリと痛かった。もらったコーンスープを冷ましながら、少しずつ飲んだ。


「思えば、あの時もこんな感じだったかしら。」

「あの時…あなたは?」


 鷲尾は『先の大戦』後もこの家に流れ着いた。


「どうして…俺はここに?」

「神の御導き…というのは冗談よ。子どもたちと散歩してたらね。通り道にあなたが倒れていたのよ。それから3日間、あなたはずっと寝てたの。」

「そうか…。」

「あの時も土砂降りだったわね。2日間ぐらい寝ていたかしら。」

「そうだな。」


 彼女の名前は『佳乃(よしの)』という名前で、不知火と同年代の40代半ばくらいの見た目をしているが、鷲尾がわかっていることといえば人里離れた場所で身寄りのない子どもを住まわせていること、そして鷲尾が太陽剣士イーグルであることぐらいだ。


「光四郎が運んできてくれたのよ。」

「光四郎が?そうか、あいつも…。」


 鷲尾は一言お礼を言うためにまだ重い体を動かした。この場所を離れて3年、あどけない少年はどれだけ大人になったのか、一目見たかった。


「光四郎…なのか?」

「わ…鷲尾さん!よかった!目覚めたんだ!」


 光四郎は力仕事を放り出して思わず鷲尾に抱き着いた。鷲尾も笑顔を爆発させた。


「お前…こんなに立派になって!大きくなったなあ!」

「親戚のおじさんみたいに言うなよ!3年たったんだ…鷲尾さんがいなくなってから。俺だって17になったんだよ。」

「そうか…。そんなに。」

「そうだ!俺ほかの子どもたちにも行ってくるよ。」

「光四郎は先にそっちの荷物何とかしなさい。」

「いけねえ!忘れてた。」


 佳乃は鷲尾を子どもたちのいる。大広間に連れて行った。


「増えたな…。」

「ええ。戦争は続いているから…。親を亡くして、身寄りのない子が増えていく。手を差し伸べる大人もいなくなった居場所を私は作らなくてはいけないと思ったの。」

「なぜ…そう思ったんだ?」

「罪滅ぼし…かしらね。」

「罪滅ぼし?」

「冗談よ。でも、あなたが自分は『太陽剣士イーグル』だって言ったときは驚いたわよ。」

「そうかい?『そう…なのね。』しか言わなかったじゃないか。まるで知っていたかのように。」

「本当に驚いたときは声が出ないものよ。さて、お夕飯にしましょう。」


 そう言って佳乃は鷲尾と子どもたちを食卓に連れて行った。鷲尾にとってナポリタンは久しぶりのごちそうだった。


「ふう…。」


 子どもたちがいなくなった後、一息をついた鷲尾は自らの戦いについて佳乃に話し始めた。


「昔の仲間に会ったよ。俺に続く世代の剣士にも会えた。あとベーシックヒューマンの仲間もできた。」

「そう…。心強いわね。」

「でも次の世代の奴は故郷を追われた。俺と出会ったばかりに。それにあいつの幼馴染もどこかに消えた。かつての仲間の一人が敵になって、インセクターも、バードマンも、みんな巻き込んだ戦争が起こってしまった。仲間が死んだ。人間もバードマンもインセクターもいっぱい死んだ…。ここにいる子どもたちと同じ思いをさせないようにしたのに…何も、何も守れなかったよ…。」


 食卓に一滴の涙が零れた。


「もう、あなたは十分に戦ったじゃない…。ずっとここにいてもいいのよ。」


 鷲尾はすすり泣いていた。確かに十分戦った。インセクターの隊長も5人倒した。ここで『太陽剣士イーグル』の名を捨てたところで、インセクターの脅威は去った今、不知火の管理下に戻るだけだ。争いもなければ『天使』も起動しない。人も、バードマンも、インセクターもそれぞれが最適な場所に根付く。それでいいじゃないか、いいじゃないか、いいじゃないか…。


 それでいいのか。灯夜、白鳥、雷太、立川…残された仲間はどうするのか、『天使』だったあすかに人間の生活を戻さなくていいのか、近藤とは二度と会えないままでいいのか、そして本当の自由は、ここにいる子どもたちの希望溢れる未来は…そしてこの空の下に守りたかったものは…


「俺、行かなきゃ…。俺はこの空の下に守りたいものがいっぱいあるんだ。」

「そう…。」


 一言だけ返事をした佳乃は鷲尾の隣に座った。


「正直な気持ちを話してくれたあなたに力を託すわ。あの時は何もしてあげられなかったから…。」

「力?」

「ええ…かつての私はエンジニア。あなたたちを作った者のひとりよ。」




 

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