第43話 イカロスの翼
衝撃の事実のはずだった。ただ少しずつ飲み込んでいる自分もいた。とりあえず鷲尾は黙って佳乃の話を聞くことにした。
「22年前かしらね。『ネオスプラムプロジェクト』…当時駆け出しの遺伝学研究者だった私は政府の命を受けてこの遺伝子融合のプロジェクトに参加した。若かった私は自分の研究が認められた高揚感と人類の生活圏の拡大向けた使命感で胸がいっぱいだった。」
「それが…。」
「ええ。生活圏の拡大は表向きのもので裏では生物兵器のための生態改造をしていた。」
「ああ、呪ったさ…。自分の境遇をね。」
「あの時はどうかしていた。実験室に連れていかれてはリジェクションに耐えられず死んでい行く人々…。最初は希望に満ち溢れていた被験者も数日たてば全員泣き叫んでいた。恐怖に耐えられず自ら命を絶つものもいた。研究は進みリジェクションを投薬によって抑えられるようになったけど、それも生産が追い付かなくて…。このままでは兵器どころか表向きの理由だった生活圏の拡大すらままならない。プロジェクトは中止し、研究チームも解散になったわ。」
「……。」
「残ったのは生き残ったバードマンやインセクターなど、生体兵器にさせられてしまった人々。その中で私は残った研究チームのメンバーと組んでバードマンを集め『鳥籠』を作った。」
「そこで作られたのが俺たち…。」
「私は『あの人』と研究を重ね、受精卵から人と鳥を融合することに成功した。最初に作られた『第1世代』があなたたちなのよ。」
「あなたが…『あいつ』と…つくった…。あんたも結局戦争の道具として俺たちを作ったのか!だったらなぜ『戦わなくていい』なんて言ったんだ!あんたは!俺を!だまって戦場に送り込めばいいんだ!」
鷲尾が感情を露わにした。光四郎が思わず駆け付けた。
「鷲尾さん!佳乃ちゃん!どうしたんだよ…。」
「…なんでも…ないのよ。」
目が赤くなっているのを見た光四郎は佳乃のその言葉を信じなかった。
「…光四郎も聞くんだ。俺は太陽剣士イーグルだ。そして俺という戦士を生み出したのがこの佳乃さんだ。」
「なんだって…。佳乃さん…本当なのかよ。」
佳乃は黙って頷いた。
「俺はこの力があるからこそ戦えるし、誰かを…誰かを守ることだってできる。いいか、光四郎。例え力を与えられた理由が歪んだものだとしても、正しい心があればそれに溺れることなく生きていける。ヒーローにだってなれるんだ。」
「鷲尾さん…。」
「最も、ヒーローなんて言いない世の中が一番いいんだ。」
「そうだね…。」
その瞬間、光四郎がその場でふらついた。
「待って!今、薬を持ってくるわ!」
鷲尾が抱えて光四郎をソファに寝かせた。佳乃が薬を持って光四郎のもとに駆け付けた。薬を飲んだ光四郎は眠りについた。その薬に鷲尾は見覚えがあった。
「その薬は…。」
「リジェクションを抑制する薬よ。」
「光四郎は…。」
「バードマンの手術を受けた父親とベーシックヒューマンの母親から生まれた混血児なの。」
「そんな…。」
「ここにはね、彼みたいな子供のほかにインセクターの混血児も、受精卵段階からバードマンだった子もいるわ。」
「彼らだけを集めた施設ってわけか。」
「2人で研究をしていくうちに彼は暴走した。あなたたちだけではなく、本当に戦うため『だけ』の戦士、フライングトルーパーを作った。さらに自分の作り出した戦力に溺れた彼は空母も造り、インセクター打倒を始めた。彼についていけなくなった私は自分の研究データの一部を除いて破棄して隠居を始めた。あなたが生まれて…すぐぐらいかしらね。」
「その一部っていうのは。」
「これからあなたに授ける力よ。ついてきて。」
そう言って部屋の壁に手を当てると地下室への通路が出てきた。彼女がそういう風に建てたのではなく、前の住人の趣味だったようだ。階段を降り切ると2つ、ブレスレットのようなものがあった。片方は金色でもう片方は銀色、イソップ童話のようだった。
「これは…。」
「これは『イカロスチェンジャー』。バードマンが戦争を終わらせるための最終手段。これを使うことで戦闘能力は格段に上がるわ。」
「最終手段。」
「ただこれは声紋認証システムで登録した人しか使えないの。」
「誰か使ったのか。」
「ドロイドで起動実験で使った程度ね。短時間ですさまじい力を発揮した。完全に戦場におけるゲームチェンジャーだから、正しい心を持たない者には渡せない。そう判断したのよ。この1つをあなたに託す。」
「いいのか?」
「あなたは優しく、そして強いわ。」
「買いかぶるなよ。俺はあんたに作られたと聞いて激高した男だぞ。」
「でも、光四郎には言ったわよね。正しき心があれば溺れないって。」
「…そうだった…な。」
「最後に教えて。あなたがこの空の下で守りたいものは何?」
「……すべての人類の尊厳、子供たちの未来、仲間たちの夢、そしてヒーローのいない世界の基盤だ。そしてこれらが守られる世界を創るさ。」
「わかったわ。この金のイカロスチェンジャーを、あなたに託します。そしてこの銀のイカロスチェンジャー。これをあなたが一番信じる人に渡して…。」
「…わかった。」
鷲尾と佳乃は地下室を出てベランダに出た。鷲尾は件を抜いてイーグルになると右腕に金色のイカロスチェンジャーを装着した。すると音声が流れ始めた。
『ただいまよりイカロスモード変身者様の声紋登録をします。液晶部分に向かって『イカロス』と言ってください。」
イーグルは大きく息を吸った。そして
「イカローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!」
その声は夜空にこだました。するとイーグルの体はたちまち金色に染まった。
「…これが。イカロスモード…」
「ええ。その力で守りたいものをすべて守って。そして…『あの人』を止めて。」
「あんた、あの人とどういう関係だったんだ。」
「私の本当の名前は『不知火佳乃』。『ネオスプラムプロジェクト』が始まってすぐ、籍を入れたわ。」
「だから離れられなかったのか…。」
「そうね…。」
「わかったよ。不知火さんを止める。俺が壊すよ。『鳥籠』をね。」
そんなやり取りをしているうちに子供たちは起きてベランダに集まっていた。
「では、行ってくる!」
イカロスモードになったイーグルは輝きを放ちながらあっという間に飛んでいった。
「がんばれ!太陽剣士イーグルーーーーーーーーーーー!」
イーグルには子供たちの声援はもう聞こえてはいなかった。ただ彼らの未来を思い、仲間の元へ向かった。
太陽剣士イーグル しげた じゅんいち @math4718
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