第40話 慟哭の剣

 戦いが終わって数日後、多くの軍勢がいて、戦艦が打ち合ったのがウソのように静かになった。ただ、 拠点に戻った翼のレジスタンスの剣士たちは『エンジェリック・ウォー』がもたらす喪失感を確かに感じていた。


「「「……」」」


 白鳥も、雷太も、立川きょうだいも一切口を開かなかったが、そこに近藤颯が入ってきた。


「……『第2世代』の彼は。」

「…奥ですよ。あすかがいなくなったんです。当分は…。」

「俺がなんですって?」


 近藤がようやっと裂いた沈黙に乗っかるようにいかり肩で灯夜が奥の部屋から出てきた。


「あんたが…あんたが…!!!!」


 そう言って近藤につかみかかった。


「あんたが…あんたが『そっち側』にいたから!あんたのちっぽけなプライドが!こんな事態を引き起こしたんじゃないのか!」


 灯夜の頭の中は今、曇天模様であり、今までの戦いの中で見たもの、起こったこと、出会った人のことがどんどんぐちゃぐちゃになり支離滅裂な洪水が起こっていた。


「大体さ…大体…みんななんなんだよ!あんたら!あんたら全員だよ!俺の記憶が何でないんだよ!なんでなくしたなんてこと言ったんだよ!俺は!あすかと!ただ穏やかに暮らしていければよかったんだ!それなのに…それなのにさ!あの人が…わ、鷲尾さんが来て…自分が普通の人間じゃないってわかって、故郷を追い出されて、気が付けばずっと戦ってばかりで、あすかが人間じゃなくって、どっか行っちゃって…みんな…みんな…俺はどうしたらいいんだよ!誰か!誰か教えろよ!うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 この静寂の中で灯夜の慟哭が部屋中にこだました。そこに近藤がすっと近づいてうずくまる灯夜の前にひざまずいて話しかけた。


「気は済んだか…。お前も剣士なら自らの剣を持って思いをぶつけろ。そして迷いを断て。」

「くっ…はあ……はあ…。俺は…俺は…わかったよ。」


 そう言って自分を落ち着かせた灯夜は炎凰剣を抜いてホークに変身し、近藤もコンドルになることでそれに応じた。誰もが呆然としている中、重傷を負っていた立川がゆっくりと出てきた。


「よう、なんか面白いことになってるじゃねえか。」


 鼠色の空の下ホークとコンドルが一騎打ちを始めた。やがて雨が降り、雷が聞こえた。降りしきる雨の中、2人の剣士の振るう剣の金属音だけははっきりと聞こえていた。大ぶりなホークに対して、コンドルはそれを簡単にいなしていた。


「うおおおおおおお!」

「振り回すだけじゃだめだ!お前の剣はそんなものか!」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!鷲尾さんへのコンプレックスの塊だったあんたに言われたくない!」

「そうだ!俺はあいつに対して劣等感を抱いていた!だから、強くなろうと思った!」

「だったらなんで!なんで一緒に行かなかったんだよ!あんたがそばにいて強くなればいいだけの話だろう!」

「でも俺たちの考え方が違った!俺は!バードマンを守るために!俺たちを脅かすベーシックやインセクターを倒すためにはあの人のそばにいることが大事って考えたんだ!」

「利用されているだけだったくせに!」

「それでも!それを俺は選んだ!お前はどうなんだ!振り回されて!流されて!結局お前は何がしたいんだ!何を守りたくて戦っているんだ!」

「俺は!あすかと!あすかが穏やかに暮らせる世界を守るって決めた!そのための翼と!剣だ!」

「だったら乱暴に剣を…振るなああああああ!」


 空中でのつばぜり合いから弾かれてホークは地面にたたき落された。そこゆっくりと、コンドルがゆっくりと、少し無防備気味にホークに向かって歩みを進めた。近づいたところ、ホークが起き上がって炎凰剣をコンドルののど元に突き立てた。ホークの息は上がっていたが、突き付けられたコンドルは何かを悟ったような表情だった。しばらくしてホークは剣を鞘に納めた。


「あんた…卑怯だよ。」


 コンドルも剣を収めた。


「何がだ?」

「自分が斬られるつもりだったんだろ?」

「…さあな。」

「もういいよ。だけど、話してくださいよ。あんたたちのこと、そして…。」

「この世界のことだろ。いいだろう。」


 この戦いの行く末を見ていたすべての者が、諭されるように戻った。雨は上がっていた。


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