第39話 白い闇の中へ

「高電磁フィールド!」


 オウルは高電磁フィールドで少しでもグレートパピヨンの落下を遅らせようとした。


「流水剣!スーパースプラッシュ!」


 スワンも燃え盛るグレートパピヨンを必死に消火した。


「温度が下がった!全員つかんで!」


 スワンがそう言うとイーグル、コンドル、ホーク、オウルが期待の先端部をつかんだ。ただ5人では減速させるのが難しかった。


「もっと!もっとだ!高電磁フィーーーーーーーーーールド!」

「流水剣!フリーザーハンド!」

「うおおおおおお!」

「おおおおおおおおおおおお!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 それでも、それでも向きを変えるために5人のバードマンが必死に抑えた。向きを変えようと、椿が愛したこの自然を、この大地に生きるすべての『人』のために。そして彼らが伸ばした手は確実に届いていた。


「スタッグカッター!ぬおおおおおおおお!」

「あんたは!桑形…!」

「いかにも!」

「どういうつもりだ!」

「私は破壊は好まんと言った。少年!」


 副隊長機ギラファー・桑形に続き第1番隊・甲虫部隊のスタッグ隊も協力し始めた。そこにアムーゼンキャブ・蜂須賀率いる第4番隊・膜翅(まくし)部隊も続いた。


「まったく、やってられないな。」

「君は…ハチの隊長。」

「地上がどうにかなる一大事だからな。俺たちの統率力、お前らにも人間にも見せてやる。」


 バードマンが、インセクターが、ほんの数分前まで『天使』の争奪をかけて戦っていた彼らがこの大地の安住の地を守るため、一つになろうとしていた。


「見てるか…椿…。お前が愛した自然を…みんなで守るから…だから…。必ずお前を拠点に連れて帰る…。」


 グレートパピヨンの軌道が少しずつ変わり始めた。あと少し向きを変えることができれば海に一直線に向かうことになる。


「あと少しだっていうのに!フィールドが限界だ…!」

「島袋!お前は離脱しろ!あと少しは俺たちが持たせる。みんなも無理はするな!」

「すまない…!」


 オウルとともに、インセクターも少しずつ方向が変わっていったのを確認して離脱を始めた。ただ、その向こう側に『天使』が現れた。


「あれは…。」

「まさか…本当に覚醒してしまったのか」


 『文明破壊プログラム』最終システム・破壊天使と化したあすかがそこにはいた。


「あすか…あすかあああああああああ!」

「そっちに行っちゃあだめです!兵器とみなされ殺されるだけだ!」


 スワンが静止した通り、ホークに向かって鍵のような形をしたレーザー砲の照準を向け始めた。ホークは思わず腰が引けた。射線上にはグレートパピヨンが入っていた。


「まずい!俺はフィールドはもう出せない。このままじゃあ…。」

「全員!一斉退避だ!みんな射線上から離脱しろ!ここは俺が…!」

「鷲尾!無茶ですよ!」

「白鳥の言うとおりだ!ヤケになっているのはお前のほうじゃないのか!?鷲尾!」

「違うさ、近藤!俺を…太陽剣士をなめるなよ!」


 イーグルの体が白く光った。最後の力で完全に軌道が変わろうとしていた。ただ、それと同時に破壊天使はレーザー砲を放った。


「あすかあああああああああ!」


 手も伸ばすことができず慟哭するホークの前にハチ型インセクターたちが丸い壁をつくった。


「分封蜂球!」


 それは隊長機・アムーゼンキャブを守るための防衛陣形であった。


「そんな…。」

「やめろ!それ以上はお前らが持たねえ!」

「地上がどうにかなる一大事じゃないですか!」

「体調が教えてくれた統率力!組織力!見てください!」

「お前たち…やめろおおおおおお!」


 その光はあまりにも強すぎた。ハチ型インセクターたちは一瞬で灰になった。その光は若干弱まったものの、グレートパピヨンに向かっていた。そこには光に包まれたイーグルだけがいた。


「「「鷲尾!」」」


 コンドルも、スワンも、オウルも、太陽剣士の名を叫んだ。イーグルは最後の力を振り絞っていた。


「うおおおおおおおおお!プラチナ!シャアアアアアアアアアアイン!」


 イーグルの体は白く発光していった。グレートパピヨンは完全に海のほうに向かって落ちようとしていた。レーザー砲はすんでのところで外れた。ただレーザー砲が落ちた遠くの海の水面から大きなきのこ雲が発生した。それからすぐにグレートパピヨンが水中に落下、洋上で爆発したことをそこにいた誰もが見届けた。

 それを見届けたかのように破壊天使は静かに去っていった。


「あすか…そんな…。」

「今は追うのはよしましょう。」

「終わった…のか。」

「今は…な。ただ、失ったものが大きい。この戦いからは…何も得られない。」


 後に『エンジェリック・ウォー』と呼ばれるこの戦いはグレートパピヨン墜落と『文明破壊プログラム』こと『破壊天使エンジェリア〈飛鳥〉』の完全覚醒をもって終結した。『鳥籠』のバードマンは大きな被害はなかったものの、ベーシックヒューマン側はグレートパピヨンの攻撃により多くの犠牲者、負傷者がでた、インセクター側も第2番隊・鱗翅部隊の隊長、蝶野かずはをはじめとする多くの兵が戦死した。そして翼のレジスタンスも破壊天使となった天野あすかは行方不明、オースト・立川大地は重症、クロウ・烏丸樹月はこの戦いに絶望し失踪、スワロー・椿森一は死亡、そして太陽剣士イーグル・鷲尾輝星は生死不明となった。この戦いで失ったものはあまりにも多すぎた。バードマンも、インセクターも、ベーシックヒューマンも、イーグルが最後に放った輝きに少しの希望を見出したものの、戦いが終わった先は希望の光ではなく絶望の真っ白な闇の入り口であった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る