第38話 13人の黒ガラス

 椿の死を惜しむ時間はすぐに終わった。剣士は戦乱ある限り、力ある限り戦わねばならない。


「あの蝶の戦艦、ダメージがすごいですね。」

「そんなこと言ってる場合…ってええ!?」


 オートコントロール状態のグレートパピヨンはバードマン陣営の戦艦ブレーズヴェルクの艦砲射撃に一方的にやられていた。墜落はもう時間の問題で、火を纏ったグレートパピヨンは拠点のある森に堕ちようとしていた。一定の損傷ができた場合、そのようにプログラムされていたようだ。


「烏丸…、立川…!くっ…返事がない!」

「このスピードでは…どこに逃がせばいいんだ。」


 レジスタンスの一騎当千たちの剣士たちも、対応に困る中真っ先に飛んで行ったのはコンドルだった。


「近藤…お前、ヤケになってないよな。」

「アレを止める。これが俺にできる…アイツへの償いだ」

「待て!お前だけの力じゃあ無理だ!無駄死にだ!」

「なら何ができる!アレが地上に堕ちれば、この森だけじゃない!この辺りはすべて吹き飛ぶ!それだけのシロモノなんだ!」

「だから!1人で行くなっての!」

「何だって!?」

「椿の言葉…『仲良くやれ』って…俺たちはバードマンだ。全員の能力を合わせれば、墜落の位置を変えられるかもしれない。」

「そんなこと…。」

「俺たちを、そしてお前自身を信じろ。」

「鷲尾…。」

「白鳥、雷太、灯夜…ついて来てくれるか。」

「仕方ないですね…。僕の流水剣なら消火作業はできます。」

「俺の高電磁フィールドがあれば、多少は落下を遅らせることができる。」

「俺も行きます。あすかも、椿さんが愛したこの森を守って見せますよ。」

「というわけだ、近藤。」


 こうして5人のバードマンがグレートパピヨンを抑えるため飛び立った。自然を、すべての命を守るために。


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「こういう時に出てくる奴を火事場泥棒っていうんだろうなあ。」


 オーストの周りにはクロウと同じ姿をした12体のフライングトルーパーに囲まれていた。


「大兄ちゃん、この辺の爆弾はさっき拾ったリモコンのプログラムをいじって無効化しておいた。爆発しないから思いっきりやって!」

「陽太…ありがてえ!」


 そう言って真っすぐ『跳んだ』オーストは大きな大地剣を大きく振りかざした。


「大地剣!ハンマーブレイク!」


 フライングトルーパーを1体、地面にたたき落とした。


「あと11人…。」


 地上戦しかできないオーストはバードマンの中でも俊敏性に優れたクロウ(フライングトルーパー)に翻弄された。気が付けば6体のフライングトルーパーに囲まれた。残りの5体は『拠点』に向かっていった。


「偽物野郎…。その面で…入るんじゃねえ!」


 ただオーストか囲まれて動けない。


「千鶴!陽太!うい!あすかああああああ!」


 その時だった。クロウが、烏丸樹月が戻ってきた。


「月光剣!クレッセントスラッシュ!」

「ぐっ…。」


 クロウは肩で息をしているように見えた。やはり自分と同じ姿をしている者が今ここで死んだことは何らかの動揺があるようだ。


「はあ…はあ…。」

「烏丸、お前…戦うことができるのか。」

「俺は…俺は戦うことしかできない。うわあああああ!」

「あいつ…でも無理してもらうしかねえ!」


 オーストは地上で大地剣を振り回しかく乱するフライングトルーパーに立ち向かう一方、クロウはあすかを奪還しようとするトルーパーたちの撃墜に拠点に向かったが、それでも数で攻めるフライングトルーパーには翻弄されていた。


「やめろ!やめろおおおおおおおおお!そこには、あすかが…家族がいるんだ!」


 オーストが『拠点』の方に背を向けたとき、フライングトルーパーが背中に斬撃を加えた。


「ぐあああああ!」


 よろけている合間に次から次へと斬りかかってきたが、全員で来たところを何とか大地剣で防いだ。


「5体揃ったってよ…俺にはパワーで勝てねえよなあ!?」


 これが火事場の馬鹿力か大地剣を釣竿を振るように抑えていたフライングトルーパーをすべて吹き飛ばした。そして新たな必殺技で敵を一掃した。


「くらえ!大地剣!アースブレイク!」


 地面に豪快に剣を突き刺すと地面が刺激され、フライングトルーパーは次々に爆散した。


「はあ…はあ…。行かなきゃ…行かなきゃ…。」


 残りの力を振り絞り、オーストは『拠点』に向かった。そのときクロウは残った5人のフライングトルーパーを追って、『拠点』に戻った。


「烏丸君…?」

「いや、姉ちゃん。ちょっと違わないか?」


 千鶴と陽太から見れば一瞬烏丸が戻ったかに見えた。ただし、それが複数体現れたとき、偽物だとわかった。


「ここからは…。」

「通さない…。うい!あすかちゃん!逃げろ!逃げるんだ!」


 あすか達を守ろうとする2人に、非情にもフライングトルーパーは剣を向けた。


「ひっ…。」


 2人とも腰が引けてしまった。フライングトルーパーたちは怯んだところをまっすぐ進んでいった。いつでも殺せるから、あえて見逃したのだろう。フライングトルーパーが奥に進んだところに、クロウが戻ってきた。


「千鶴…。」

「い、いやあああああ。」

「姉ちゃん、本物の烏丸君だ!」

「来ないで…来ないでええええ!」


 恐怖を植え付けられた千鶴は、同じ姿をした『本物』のクロウもすでに恐怖の対象だった。無言で目をそらしフライングトルーパーを追った。


「うあああ。カラスくんがいっぱいだあ!」


 隠れて声をだすういにも目もくれず、室内というのにクロウは飛び掛かって自分と同じ姿のトルーパーたちに斬りかかった。


「このおおおおおおおお!」


 烏丸の今までに聞いたことのない叫びが聞こえた、生々しい切断の音はおびえている千鶴たちや隠れているうい、そして一番奥の部屋に隠れていたあすかにも聞こえていた。


「烏丸君、もういい!やめて…やめて…ヤメテ…ヤ…メ…。」


 隠れていたあすかが出てきたが、連れ去っていく役割を担っていたフライングトルーパーは自分の目の前で惨死していた。ここで殺し合いがあったことがすでに自明な中でついに戦争因子が200に達してしまった。


「戦争因子…200…最終プログラム発動。」


 そんな電子音のような声が発せられたとき、あすかの体は白くまばゆい光に覆われた。それから瞬く間に天使の姿になり、空へ飛んで行った。ついに『文明破壊プログラム』最終システムが発動してしまった。それをクロウは茫然と見届けることしかできなかった。



  



 

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