第37話 EVERGREEN
「椿…一人で突っ走ちゃってさあ!」
懸命に追いかけていたオウルだがすでにスワローのあまりにも直線的に向かっていったため置いていかれてしまった。ただ、スワローのスピードだけが直接の原因ではなかった。
「お前は行かせんよ!」
第4番隊・膜翅(まくし)部隊が行く手を阻んだ。
「いや、どいてもらうぞ。」
「できるかな。我が第4番隊のこの軍勢と組織力の前に。」
「できる。いや、やってやるさ。」
そう言ってオウルは雷光剣を敵に突き立てた!
「お前は組織力を過信しすぎだ…。俺たちの強さを…なめるなよ。」
「強がりを。」
「高電磁フィールド!」
「守るだけではジリ貧だ!やれえええええええええええええ!」
「雷光剣!フィールドダッシュ!」
「ぐああああああああ!」
「しああああああああ!」
高電磁フィールドを剣先に集中させ、攻防一体の突撃技を繰り出した。触れた敵インセクター、ホーネットやワスプは一瞬で灰になった。そして電光石火のごとく、第4番隊を突き放した。
「くっ…、足止めは失敗か…。グレートパピヨンの射程に入るわけにはいかない。体制を立て直すぞ。」
第4番隊はこの戦線をあきらめ撤退した。オウルは敵をうまく撒いたことを忘れるほどに直進していた。
「待ってろよ…椿!」
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ホークも結局は第1番隊副隊長、ギラファーに道を譲ってもらう形でグレートパピヨンに向かっていた。スワンもそれを追いながら通信を送っていた。彼らの現在地はグレートパピヨンからかなり距離があった。
「椿…くれぐれも刺し違えようなんて、考えないでくださいよ。」
「差し違えるって…何を言っているんだ白鳥さん。」
「何って文字通りですよ。」
「そんな…。」
「彼は広範囲の技を持たない隠密型のバードマンです。隠れるとこもない敵の本拠地では不利なんです。」
「だったら尚更!」
「ええ…だから急いでいるんですよ!」
スワンがホークを抜き去っていった。
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イーグルの通信はコンドルにも聞こえていた。
「聞こえたな近藤。」
「…ああ。」
「それでもお前は、俺と斬りあうことを望むか。」
「……。」
「感じる…いや、感じなくなっているはずだ。椿の因子を。」
「…ああ。」
イーグルが一気に詰め寄った。再び2人はつばぜり合いのようなかたちになった。
「わかっているだろ!この状況を!それを椿は…!」
「何を言っているんだ!この惨状は!椿は!すべてお前たちが招いたことだってまだわからないのか!」
「だから止めに行かなきゃいけないんだろ!俺たちが!!」
「どのみち間に合わない!行ったところで俺たちの母艦『フレーズヴェルク』が迎撃に入る。艦隊戦になる以上もう俺たちの出る幕じゃないさ!」
「そんなことで簡単に椿を見捨てられるか!」
「お前も私情で戦っているだろうに!」
「お前こそ私情のために椿を見殺しにしようとして!」
剣と剣が当たる金属音も爆撃の音によって既にかき消されていた。
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スワローは剣で突かれただけでなく、道中で蛾型インセクター・モスの吸血攻撃にもあった。
「はあ…はあ……。」
大きく息をしながらスワローは巨大戦艦グレートパピヨンの操縦室に入った。
「き、来てやったぜ…。へへっ。」
操縦士たちはここまで来たことに驚きつつも、持ち場を離れられなかった。
「来たね、死にぞこない。」
「へ…へへへ…。俺の奇襲が…うまくいったようだな。敵が混乱しているうちに切り倒して…やったぜ…。」
「傷だらけでよく言う…。いいわよ~。私が引導を渡してあげる。変身!」
そう言って第2番隊隊長・蝶野かずはは隊長機・スワローテイルに変身した。
「スワローをスワローテイルの私が倒す…。ふふふ。これも運命かしら。ねえ、こいつを落とすからハッチを開けてちょうだいな。」
指示を受け、操縦士によってハッチが開かれた。それがわかるとスワローテイルは一気にスワローにレイピアを突き立てながら向かってきた。スワローはそれを間一髪、避けた。
「くっ!」
抵抗むなしくスワローはグレートパピヨンの外に放り出された。ここに、スワローとスワローテイルの空中戦の火ぶたが切って落とされた。強風はスワローの傷に障った。
「ほれほれほれほれ…ほれぇ!」
『蝶のように』決して舞うことなくレイピアを突いてくるスワローテイルに距離を詰められなかった。
「くそ…緑森剣で防ぐのでいっぱいか…。けど!」
力を振り絞ったスワローはスワローテイルの死角に回り込もうとした。ただ、スピードに体がついていかなかった。
「遅~い!」
隠密攻撃も簡単に塞がれた。今度はスワローテイルがスワローを惑わし始めた。
「フェアリーファントム殺法!」
優雅かつ幻想的に残像を見せた。まさに『蝶のように』舞っていてそれは一見ゆっくりしているようにも見えた。
「そのスピードじゃあ…。」
そう思っていたスワローは不意をつかれ左わき腹を刺された。
「ぐああああ!」
「ははは。そろそろ終わりね~あんたも。」
「はあ…はあ…そうだな。はあ…はあ…」
「あんた…。」
「肉を切らせて骨まで…。あんたも連れてくぜ…。緑森剣!」
スワローは渾身の力で必殺技を
「真空…燕返し!」
ゼロ距離で必殺技を決めた。いくら隊長機でもひとたまりもない。
「あ、あんたあ…ぐえあああああああああ!」
「土に…還れえええええええええええええ!」
スワローテイルの腹を思いっきり蹴り、その反動で腹を貫いたレイピアを外した。
「はあ…はあ…。そろそろ…か。俺さ…疲れちまったよ。」
スワローはそうつぶやくと全身の力が抜け、そのまま落下していった。それを見つけたのはグレートパピヨンに向かっていたスワンとホークだった。
「椿!」
「椿さん!」
進路を変え、急いでスワローのもとに向かった。2人は彼の体を抱えて地上に下した。グレートパピヨンに直進していたオウルも合流した。
「ぐっ…何だ、この感覚…。」
「すごく体の何かが…感覚がなくなっていくようだ…。まさか、椿が!?」
ずっと戦っていたイーグルとコンドルもスワローの因子の導きが弱っていくのを感じた。
「椿…このままでは!」
イーグルも戦線を離脱し、スワローのもとに駆け寄ろうとした。
「鷲尾!待てよ!」
コンドルもそれを追いかけた。
スワン、オウル、ホークは戦場から離れた木陰にスワローを横たわらせた。
「こ…こ…は?」
「森の中ですよ。島袋さん、白鳥さん。早く拠点に戻りましょうよ。手当をしないと。」
「いいんだ…わかってるさ…俺…は…もう飛べねえ。はあ…はあ…それに…俺を運んでさ…地雷のど真ん中に…突っ込めるかよ…。」
「椿、もうしゃべらないでください。」
「はあ…はあ…ちょっと休ませて…くれよ…。隊長機…さ…1人…倒したんだから…よ…。」
「椿…椿…!」
イーグルも駆け付けた。
「椿!」
「よお…鷲尾か…。わりい…。一緒に…農業…できねえや。はあ…はあ…。」
「椿…俺は…。」
「鍬の持ち方は…適当に…動画でも…見…ろ…。」
スワローは薄れゆく意識の中でコンドルがいるのも見えた。
「近藤…も…いるのか…。みんなさ…な…か…よく…やれ…よ…。」
スワロー・椿森一はここで事切れた。第1世代全員とホークに看取られ森の中で眠るように息を引き取った。
「椿…椿いいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
イーグル・鷲尾の慟哭が森中に響いた。スワン・白鳥流水、オウル・島袋雷太、ホーク・飛鷹灯夜も彼の亡骸を見ながらずっと泣いていた。その光景を見たコンドル・近藤颯は立ち尽くすしかなかった。
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