第32話 開戦
『私はインセクター第1番隊隊長、甲本誠だ。ベーシックヒューマンの諸君に告ぐ。バードマンにより結成された翼のレジスタンスは人類の最終兵器である文明破壊システム、通称『天使』を所持している。さらにその天使を『鳥籠』のバードマンたちが奪還しようとしている。『天使』の存在は今、確実にこの国の均衡を壊している。我々インセクターは天使を破壊する。我らが同志、第7番隊隊長・秋津飛龍が命がけで突き止めた拠点に総攻撃をかける。天使の破壊後は改めて、この大地に我々インセクターの居場所をつくる。そのとき、我々から真実を伝えよう。ベーシックヒューマンどもよ、命が惜しければせいぜい逃げるんだな。そしてバードマンどもよ、貴様らが『劣等人種』と見なした俺たちにも五分の魂があること…思い知るがいい!』
本当に束の間だった。この放送からわずか数分後、インセクターの大群をレーダーが察知した。
「すみません…鷲尾。あの7番隊の隊長、今際に座標送る前に仕留めるべきでした。」
「謝るな、いずれこうなるってわかっていたんだ。」
「おい、千鶴!あとどれくらいでくるんだ。」
「こちらでは予測到達時刻まであと53分だって!」
「鷲尾…どうするんだい?」
「大群が来るなら待っていてもジリ貧だ…散開して迎え撃つ。立川…万が一のためにお前はここに残ってくれ。」
「俺が飛べないからか…。」
「そうだ…。」
「今更俺を足手まといって言うんじゃねえだろうな…。」
「お前にしかできないことがある。」
「…うまく乗せやがって…!変身!」
「全員、剣を抜け!」
イーグル、ホーク、スワロー、スワン、クロウ、オウルは6つの方向に飛び去って行った。
「あすかに近づくなら…俺がすべて燃やしつくす!ヒートブレイズ!」
迫るインセクターを剣と心の燃え盛る業火とともに立ち向かった。
「ヒートブレイズ…サイクロン!」
「キシャアアアアアアアアア!」
炎の嵐を巻き起こし来るものを次から次へと灰にした。
「どこまでもまっすぐですね…灯夜。怖いぐらいだ。彼の純粋さ…守るのは年上の僕らの役目だ…。」
スワンはそう言うと流水剣を一層強く握った。
「流水剣!アクアワイバーン!」
三つ首の水龍とともに戦場の空を舞った。そこに両手に刃を持った武人が現れた。
「こいつは…。」
「灯夜!気を付けて!おそらく、只者じゃありません。」
「いかにも。私はインセクター第1番隊・甲虫部隊副隊長、桑形丈。我らインセクターの自由と平和のため、この準隊長機・ギラファーと手合わせ願いたい。」
「言われなくてもやってやるさ!戦争をスポーツ感覚で語るな!」
烈火のごとく感情と肉体をぶつけたホーク。ただギラファーは双剣で受け止める。
「くっ…強い!」
「若さをぶつけてきたか…ただ君は未熟!」
ホークはそのままギラファーに跳ね返された。スワンはその隙に流水剣で切りかかろうとしたが簡単に塞がれた。
「先の大戦のバードマン・スワンか。」
「相変わらず強い。」
「お前たちが我々を倒して勝利をつかんだ結果、より大きな戦争になったな。」
「…お前たちが出てこなければ。」
「そうして我らを閉じ込めた結果、さらなる反発が生まれた!すっと抑えられていたバネのように!今更わかりきったこと!」
「うるさい!」
再び飛びついたホークも右手に持った剣で防いだ。両方の剣を片手ずつで受け止めながらギラファーは話し続けた。
「私は戦士として戦うことで我らの種を守っていくと決めた!これはベーシックヒューマンから与えられた役割!私や、お前たちがどのようないきさつでつくられたかは知ってるだろう!」
「わかってないのはお前だ!俺たちは本来生活圏の拡大のためつくられた!人類の希望のはずだ!」
「そんなことを信じていたのか!純粋だな!少年よ!」
「うるさい!」
耳を貸さないホークだが、後々自分を含む『第1世代』『第2世代』ができた経緯の真実を知り驚愕することになる。
一方、スワンと反対方向を飛んでいたオウルはインセクター第4番隊・膜翅(まくし)部隊に遭遇した。
「あれは隊長機!外れくじ引いたか…。」
オウルは隊長機・アムーゼンキャブに変身する蜂須賀裕三による統率のとれた戦法に苦戦していた。
「広域高電磁フィールド!もっと!もっとだあああ!」
高電磁フィールドをもってしても大群は防ぎきれない。
「くそ、フィールドの範囲外に!」
「緑森剣!連続燕返し!」
拠点に向かわんとするハチ型インセクター・ホーネットやワスプを目にもとまらぬ速さで斬り落としていった。
「椿!形勢逆転だ!雷光剣!サンダープロミネンス!」
「分封蜂球(ぶんぽうほうきゅう)!」
隊長機に放たれた雷を隊員が一つのシールドのようになりアムーゼンキャブを護った。電撃の当たったインセクターは瞬く間に黒い灰になった。
「なっ…貴様…!」
「こいつ…仲間を盾にしやがった。」
「人聞きが悪い。俺とて人身御供をしたいわけではない!戦闘時において最も危険なのは指揮官が倒れることだ。俺の死が隊そのものの死だ!」
「だったら一直線にお前を切るぜ!」
「ふっ…。ただ、第4番隊だ俺たちだけだと思うなよ…。」
「何だと!?」
「俺だけ相手にしている場合じゃないよなあ…。」
飛べない戦士、ひとり拠点の防衛を任されたオーストは地面からゴソゴソと音がするのを聞いた。それから程なくして地面から第4番隊の別動隊、アリ型インセクター、アントの大群に囲まれた。
「おいおい…ちゃんと出番あるじゃねえか…。」
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