第31話 月下の誓い

「鍋って。」

「おう。野菜なら白菜、大根、人参があるぜ。ちょくちょく畑は見に行っていたからな。」

「そうじゃなくて!こんなときに!」


 灯夜がそういうのも当然だった。追われ身の彼らにとっては明日、いや今夜この場所が戦争になるかもしれないからだ。


「こんな時だからだろ。今は戦いが激化している。こんなことばっかりやってたらよ…忘れちまうぞ。」

「忘れちまうって、平和な日常とか…?」

「俺たちが人間だってこと。飲んで、食って、寝て、バカな話して、笑って…。そういうこと全部が俺たちを人間たらしめてんだよ。そこにバードマンも、ベーシックも…インセクターも関係ねえ。」


 バードマンたちが椿の話に聞き入っていると、大根や人参の切る音が聴こえた。


「椿さん、白菜切ったよ。」

「人参、このボウルに入れておくね。」


 千鶴と陽太がすでに鍋の準備に取り掛かっていたのだ。


「なあ、灯夜。じっとしてたってしょうがないだろ。」


 椿にこう言われて、初めてこの場所に来たときのことを思い出した。こんなときに、じっとしていられないのは何よりも灯夜自身だったことを。


「俺、出汁とりますよ。」


------------


 水炊き、もつ鍋、キムチ鍋…椿の育てた野菜をフル活用した鍋パーティーはかなりの盛り上がりを見せた。椿が奥底に隠した大吟醸も1本すっかり空けてしまった。10代の烏丸は当然飲むはずもなく、ひとり満月の夜を眺めていた。


「烏丸君、ここにいたんだ。」


 今日鍋づくりに精を出していた千鶴が烏丸の隣に座った。


「何の用だ。」

「そういうつれないこと言わない。用がなかったら…隣に来ちゃダメ?」

「…好きにしろ。」

「ねえ…戦いが終わったらどうする?私は…高専に戻りたい。」

「元の生活を望むというのか…アーマー開発のために。」

「うん…アーマーエンジニアとして、本当に人の暮らしの役に立ちたい。そして大兄ちゃんや陽太、ういと楽しく暮らす!」

「俺は…わからない。」

「わからないって?」

「俺は戦うことしか知らない。おそらく戦うためのバードマンとして造られた。この戦いが終われば俺は…役目を終える。」

「そんな…。」

「今日戦った黒いバードマン、俺と同じ顔だった…。」

「え…。」

「なぜかはわからんがこの世界には俺の代わりはいくらでもいる…のかもしれない。俺は、なんで俺なのか…わからない、すべてわからないんだ。」

「そう…世界ってそう。私たちみんないなくなったって変わりはいる。でもね…私にとって烏丸君は今目の前にいる烏丸君だけだから…だから…勝手に一人ぼっちにならないで!」


 烏丸は言葉が出なかった。


「戦いが終わったら私たちと、一緒に暮らそう。」

「一緒に…?」


 こんなに驚いた烏丸に驚いた島袋と陽太、ういが入ってきた。


「いい感じのところ悪いけど、学校だったら学費も父さんに相談してみる。」

「なぜ…。」

「この世界に俺を戻したのは君だからね…守る力があるから使う、そんなことに気づいたんだ。だから、君の人生面倒見させてほしい。」

「そうだね、俺も烏丸君と一緒に学校通えればと思う。勉強なら教えてやるさ。」

「カラスくんがお兄ちゃんになるんだ!陽兄よりかっこいいし、自慢しちゃう!」

「なんだよ、それ…。」


 長兄を除く笑い声を背にすっかり酔った大地は灯夜とあすかに絡んでいた。


「おまえらよお…そもそもどういう関係なんだよ!」

「どうって…俺とあすかは家族…まあ元々家族か。まあ大事な存在っていうか。大事の意味は…変わったかな?」

「灯夜…。私も…そう思ってる。」

「よくわかんねーなー。まあいいけどよ。」

「聞いといて何なんですか?」

「気にすんなよ。変わんねえこともあるだろ。」

「ええ。俺はあすかを守る。あすかを脅かす全てを燃やし尽くす…業火になる。」

「灯夜…。」

「どうした、あすか。何も怖がらなくていい。いいんだ…。」


 あすかは灯夜を頼もしく思いつつも、この炎のように強すぎる思いに不安を抱いていた。そこに白鳥が割って入った。


「いいですね、灯夜。でも制御できない大きすぎる炎は自分や大切なものをも燃やしてしまいますよ。」

「白鳥さん…。でも俺はもっと強くならないと…炎の剣士として。」

「なら僕は水の剣士です。君の不始末は全部沈下してあげます。でもね、限界はある…だからその炎、守るために使ってください。」

「いいこと言うな、白鳥の旦那。」

「立川、僕のこと茶化したって駄目ですよ。君たちには大事な家族がいるんです。会える人がいる…。その人たちの幸せを守ること、忘れないでください…。僕たちの力はそのための力ですよ。」

「白鳥さん…。」


 彼の切ない願いは3人の心に響いた。一方、鷲尾と椿はベンチに2人で座り芋焼酎を嗜んだ。


「まったくよ…どいつもこいつも野暮な奴ばっかりだよ。ま、そんなことも知らずに育ったから仕方ないか…。」

「烏丸じゃないが、俺たちは戦うことしか知らない。生活圏の拡大のために造られた、遺伝子段階から製造されたバードマン『第1世代』だってのにな…。」


 数秒の沈黙のうち、椿が口を開いた。


「知ってるか。今日俺たち23歳なんだぜ。」

「ああ…俺たちがこの世界につくられて…そんなに経つのか。」

「素直に誕生日って言えよ。」

「そうだな…同じ日に同じ場所で生まれて。」

「同じ教育を受けた俺たちは同じ日にそれぞれの剣を受け取り変身して、」

「同じ戦場の空を飛んだ…。」

「それがいつかバラバラになって…また戻って来たんだよ。一緒の夢掲げてよ…。近藤は相変わらずあっちにいるがな。」

「…この戦いが終わればまた俺たちはバラバラになる。」

「鷲尾…お前は争いがすべて終わったらどうするんだ。」

「…わからないな。守り抜いた世界にいる自分が想像できない。」

「だったらよ…俺とこの畑、やらないか。」

「俺が…農業か…。」

「俺は戦いがすべて終わったら本格的に農業で生きていこうと思う。自然の尊さを感じながらうまい野菜を作って出荷して、誰かが食べてうまいって言ってさ…生きてることをとことん実感できる。それを無限に供給できる農家になる。」

「いい夢だな。戦争の後に必要なのはヒーローではなく、お前みたいな夢のあるやつだな。ぜひ、手伝わせてくれよ。」

「へっ、そうこなくっちゃな…。だから今はこの自然を守るために…戦うぜ。」


 気分がよくなった2人は、翼のレジスタンスを全員呼び出した。


「今ここにバードマンが6人、人間が5人いる。種族の垣根を越えて俺たちは集まった。俺たちは明日にも戦いに赴かなければならないかもしれない。だから…今全員が顔を合わせられる今のうちに改めて誓いをたてたい。俺たちの目的はすべての人間の自由を守ることにある。そのためには生命を脅かす全てを討つこと、同じ空と太陽の下、誰もが平等で平和な国づくりを人間たちができるよう俺たちは戦うことを…。」


 言葉が止まった鷲尾にレジスタンスは一瞬ざわついた。


「そして俺たち全員生きて帰って、未来をつくっていくことをこの剣に誓う!」


 最後に7人がレジスタンス結成時よ同じく扇形に並び、一人ずつ件を前に出した。


「太陽剣!」

「流水剣!」

「緑森剣!」

「雷光剣!」

「炎凰剣!」

「月光剣!」

「大地剣!」

「我ら!」

「「「「「「「翼の!レジスタンス!」」」」」」」







 


 



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