第30話 森への逃避行

『ベーシックヒューマンの諸君に告ぐ。同じバードマンでありながら我らに仇なす翼のレジスタンスは人類の最終兵器である文明破壊システム、通称『天使』を所持している。さらにその天使をインセクターも狙っている。もし奴らの手に渡ればどうなるか、それはベーシックの君たちでも分かるだろう。君たちには天使の奪還に協力してほしい。無論君たちの動向は我々が監視しているからもしレジスタンスやインセクターに与することがあれば…その者たちの居住区域を保護対象から外す。探せ!探すのだ!それが君たちベーシックヒューマンがこの世界での生きる道ということを忘れるなよ。』


 完全に四面楚歌となった。インセクターに拠点がバレてしまった翼のレジスタンスは第7番隊との戦闘後、最低限の荷物とありったけの思い出を黒いハイエースに詰めて逃亡を開始した。椿が運転、立川は助手席、あすかを含む非戦闘要員を後部座席に乗せた。イーグルたち残りのバードマンは護衛という形でハイエースの周辺を飛んでいた。


「いいか、あくまで俺たちはハイエースの護衛が最優先だ!離れすぎるなよ!」

「もちろん!やりますよ、俺は。あすかを脅かすものすべて、燃やし尽くしてやる!」

「危険ですよ、灯夜。駆逐ばかり考えては…。」


 間もなく、インセクターの部隊が襲撃を始めた。第1番隊、甲虫大隊のホタル型インセクター・ファイアフライの大群だ。


「我ら栄光の第1番隊、この光を持ってバードマンを滅し『天使』を奪取する。エネルギーチャージ!」


 分隊長、蛍原の指示でバズーカのエネルギーをチャージした。


「エネルギー重点完了!ルシフェリン・ブラスターーーーーーーーーー!」

「ファイアーーーーーーーーー!」


 分隊長含め7つの熱放射がすべてハイエースに向けられた。


「みんな俺の後ろに下がれ!」

「雷太!どうする気だ!」

「俺にはこれがある!高電磁フィールド!」


 高電磁フィールドとは、敵のエネルギー系武器を瞬時に電気分解することによってダメージを軽減する雷光剣士オウルが使用するバリアである。


「もっと、もっとだ!」


 全てのルシフェリン・ブラスターを防ぐためにバリアを広げた。


「無茶だ!雷太!」

「まだだ…まだだよ!ここで引き下がれないんだ!滅ぼすことしか考えないお前たちに、守るものがある俺たちは負けちゃいけないんだ!うおおおおおおおおおおおお!」


 効果力のブラスターに引き下がるどころかバリアを持って前に押し始めた。やがてそれはファイアフライ軍団にさく裂した。


「ぐわあああああああ!」


 高電磁フィールドに触れたファイアフライたちは痺れて動けなくたった。オウルは肩で息をしていた。


「はあ…はあ…。」

「雷太!お前のおかげで敵は動けない。ハイエースに乗れ!」

「そう…させてもらうよ。」


 エネルギーを使い果たした雷太はハイエースに乗り込んだ。


「さて…。」


 改めて椿の農場にハイエースを発射させたその時だった。動けなくなっていたファイアフライが黒いバードマンたちに次々と斬られていった。息の根が止まったことを確認した黒いバードマンたちはレジスタンスに向かって飛んできた。近くで見ると烏丸が変身しているクロウによく似ていた。


「あれは…烏丸?ちょっと違う。」

「とにかく、俺たちで応戦だ!太陽剣!」

「そうですね…炎凰剣!」

「流水剣!」

「…月光剣!」


 こちらと同じちょうど4人、つばぜり合いが始まった。クロウの剣裁きの違いは百戦錬磨のイーグルにはすぐにわかった。


「どうした、剣の動きが鈍いぞ!」

「う…うああああああ!」


 誰もクロウのこんな声は聞いたことがなかった。不格好に振りかざした月光剣は敵にかわされたが、相手のゴーグル部分に当たった。


「うっ!」


 割れたゴーグルから目は思いっきり開いていた。その目を見てクロウは驚愕した。


「お、俺…。」


 驚いている間に他の黒いバードマンが彼に集まり、群れとなって去って行った。


「あいつら…何なんだ。様子見か?」

「あすかの奪還が主たる目的のはずだ。それはありえません。」

「戻るぞ…。烏丸。」


 夕空を見上げたままクロウは動かなかった。


「烏丸!」


 そう言われてはっとしたクロウはイーグルたちを追いかけた。


----------


 深い森の中、たどり着いたのは鷲尾や灯夜、あすかには見覚えのある場所だった。戦いが激化してからも畑はしっかりと耕されていた。


「ようこそ。ここが俺の『農場』、そして一時的な『拠点』だ。」


 そう言って椿は必要最低限の荷物を小屋に詰めた。


「11人、あの時の倍以上…か。まあここも長くないから問題ない。な、烏丸。」

「……。」

「何だよ。ぼーっとしちゃってさ。」

「ああ、呼んだか。」

「だめだこりゃ。」


 そんな談笑を交わしながら千鶴よ陽太によって簡易的にオペレーションルームができた。


「椿さん、できたよ。このあとどうする?」

「そうだな…鍋にでもするか!」


 一同は全員椿に視線を向けた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る