第29話 灰の上より

 満月のきれいな夜だった。ワイングラスを持った不知火のところに通信が入った。


「何だ。勤務時間外だぞ。」

「…お…たい。」


 電波が悪いのではない。バードマン側の電波を傍受したのだ。


「何者だ。」

「…インセクター…第7番隊隊長、秋津飛龍だ。」

「敵幹部が直々に…何の用かな?」

「『天使』の居場所を教えてほしい。」

「こちらが教えたと同時に出し抜くかもしれんぞ。そちらには不利しかない。」

「それでもだ…『天使』を仕留める。破壊兵器を止められるのはそちらにとってもメリットのはずだ。」


 それを聞くと不知火は黙って座標を送った。隊長の秋津から隊員へ瞬く間に拡散された。


「総員!この座標を中心に叩け!俺も隊長機で向かう!」


 通信を切るとコマンダーを顔に近づけ、声紋認証を受けた。


「変身!」


 秋津は隊長機・シーボルディーに変身した。


「俺が打ち抜く…争いの…禍の根源を!」


 憎しみに焦燥感が入り混じったままシーボルディーは戦地に向かった。こうして、翼のレジスタンスとインセクター第7番隊との決戦の火ぶたが切って落とされた。


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翼のレジスタンスは拠点を背にしての戦いを強いられた。


「それにしてもどうしてトンボ共がどうして俺たちの拠点を?」

「不知火側の誰かがリークしたんだろうさ。わからないけどさ。けど確実にわかっていることはどのみち拠点を放棄するしかないってことだ。とにかく今は戦うしかない。雷光剣!」


 スワローにそう返したオウルは雷光剣を天にかざすと広範囲攻撃を繰り出した。


「電撃照射!」

「ぐあああああああああああああ!」

「雷太さんの言うとおりだ。俺はあすかを脅かすこいつらをすべて燃やし尽くす業火になる!炎凰剣!メガフレアーーーーーーーー!」

「ぎあああああああああああ!」


 電撃と炎によって敵インセクターの大半が灰と化した。局地戦をひっくり返すにはこのような全体攻撃が効果的である。それを感じさせる戦法だった。


「緑深剣!真空燕落とし!」

「月光剣!満月切り!」

「ハイジャンプキック!…大地剣!ハンマーブレイク!」


 オウル、ホークが取りこぼしてもスワロー、クロウ、オーストと各個撃破のスペシャリストが逃がさない。


「鷲尾…おかしいですよ。敵の狙いはおそらくあすかです。でも…。明らかに計画性がない、ただの力押しだ。」

「数で攻めているのに結局返り討ちにあっている…お前の言うこと、一理あるよ。」

「おそらく…敵も切羽詰まっているのかもしれません。」

「切羽詰まっていたら何かな?」


 真意を探らないうちに、隊長が自ら顔を出した。シーボルディーは他のドラゴンフライより一回り大きいので秋津が変身したものだということはスワンはすぐに分かった。


「やはりお前か…。」

「これで終わりにするぞ…バードマンども…。貴様らを倒し、『天使』を破壊する。くらえ!ジャイアントボウガン!」


 シーボルディーは何のためらいもなく巨大ボウガンを放った。一度放った矢はもう後に引くことができない。スワンはさっと身をかわした。


「ツインレーザー!」


 続けざまに繰り出される飛び道具たちが剣士たちに距離を詰めさせなかった。


「流水剣!アクアドラグーン!」

「当たらんよ!」


 さらに大型化にも関わらずスピードもあるため遠距離から狙いを絞ることもできない。


「アクアドラグーン!」

「当たらんと言った!」

「照準は!こうやって調整するんだ!」


 そう言うとスワンは自らが放った水龍の中に飛び込み一体化した。


「白鳥…あの技をゼロ距離でやるつもりか。」


 水龍をまとったスワンはそのままシーボルディーを追尾した。


「くっ…振り切れん!」


 スワンはシーボルディーをそのままホールドした。傍から見ると水流がかみついているようにも見えた。


「これが…アクアドラグーン…ゼロ!」


 2人はそのまま地面に衝突した。空中で水にのまれたシーボルディーは大きく空気を吸った。辺りを見渡すと足元は灰まみれ、所々損壊した遺体の一部もあった。


「な、なんだここは…。」

「この戦いでたくさん人が死んだ場所だ。お前の仲間が。」

「お前たちが…殺したのか。」

「…ああ。」

「なんてことを…。お前たちはやはり、禍そのものだ。」

「出てこなければ、やられることはなかった。この作戦、ここまで総動員する必要があったのか?」

「うるさい…。」

「この真夜中なら、隠密行動でお前たちの言う『天使』だけ奪うことはできたはずだ。」

「うるさい……!」

「戦争に…とりつかれてしまったのかもな…。」

「うるさいうるさいうるさい!こいつらには待っている家族や恋人、仲間がいた!それをよくも!」

「そんな風に考えられるならなぜ思いとどまることができなかった!」

「うるさい!お前の命で!償ええええええええええ!」


 錯乱状態のシーボルディーが飛びかかってきた。スワンは冷静に隙を見つけ、敵の銅を切り裂いた。


「ぐああああああああああああ!」


 シーボルディーこと秋津飛龍は地面に落ち、そのまま仰向けに倒れていた。


「ちくしょう…。お前達も…楽に死ねると…思うな…。」


 そう言うと秋津は最後の力を振り絞って通信を始めた。


「こちら7番隊隊長…秋津…翼の…レ、レジス…タンス……の拠点座標をそちら…に…。」

『秋津…秋津なのか!おい!』

「インセクター…に…じ…ゆう…を……。」


 秋津は動かなくなった。戦いから解放された最期の顔は今の現世では出せないような安らかな顔であった。


「…確かに僕たちは禍を呼ぶ存在かもしれない。ただ今日に限って言えば、お前が引き起こしたことだ。僕たちにとっても、彼らにとっても禍の大元だったんだ。」


 北風によって灰が舞った。


「おやじさん、深雪ちゃん…やりましたよ。でも、もう後には退けません。死者の灰の上に生き、最後まで戦い抜きます。」


 この十数分後、インセクターの大部隊が攻めてくることが分かった。第7番隊は壊滅したものの、勝利と引き換えに安らぎと居場所を1つ、失った。

 





 

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