第28話 放たれた憎しみ
あすかは拠点の奥底の部屋で外界からシャットダウンされた。誰かが罰を与えたのではない。自ら志願したのだ。
「鷲尾さん…俺…。」
「……。」
「鷲尾、今回は俺の責任だ。昔のダチが敵だと知らずに同行させた。その結果がこれだ。」
「…もういい。いいんだ。」
鷲尾は何も言わなかった。戦争因子157。この事実だけが翼のレジスタンスの胸に突き刺さった。食事は椿が作ったものを非戦闘要員である立川きょうだいが運び、普段のコミュニケーションも彼らを通して行われることとなった。これ以上戦いの情報をインプットさせないためだ。
「千鶴さん、陽太…彼女のメモリーは何とかならないのか。」
「何度も言ったよ…灯夜君。彼女の戦争のデータは特殊な位置にあるの。」
「もしそれをいじれば、彼女のほかの記憶にも影響を及ぼしかねないんだ…。」
「くそっ…くそっ…。俺じゃああすかの…何も…。」
「そのためにもこの戦争を終わらせる。」
「戦ってばかりで…終わりはあるんですか?今の俺たちはいたずらに戦争を拡大させてるだけじゃあないか。」
「でも灯夜君たちの頑張りで隊長機を3人倒したじゃないか。」
「奴らにもきっと家族や友人がいた。その憎しみを…俺たちは…背負いきれるのか?」
この灯夜の問いかけに鷲尾が一言だけ答えた。
「わからんさ…。ただ、今は斬らなきゃ斬られる。それだけだ…。」
「あんたはこの空の下で何を守りたいんだ…。」
「…。」
この問いかけには答えず自室に戻った。
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「この戦いを終わらせねば。」
そう言ったのは第7番隊・蜻蛉(せいれい)部隊隊長、秋津飛龍であった。
「焦っちゃだめよ~。もうすぐウチらの戦艦ができるの。その時は人間もバードマンも駆逐するわよ~。」
第2番隊・鱗翅(りんし)部隊隊長、蝶野かずはは独特の緩い口調で焦燥感に駆られた秋津をなだめた。
「南風原、田端、亀梨…俺たちは3人も喪ったんだ。他の隊の再編が終わるまで待て。それに単純な戦闘力ではバードマンには勝てない。」
「勝てないって…だったらせめて停戦とかはできないものなのか。」
「俺達には対話の道なんか始めから無い。人間のエゴで改造された俺たちは勝手に『失敗作』とみなされ故郷も、人間としての尊厳も、健康で文化的な最低限の生活も奪われた。そして同じ出自のはずのバードマンはその力を利用し、俺たちを蹂躙してきた。仮にこちらが仕立てに出てそんな申し出してみろ。俺たちは管理され、いいように道具として利用されて終わりだ。それに俺たちはこの戦局を『翼のレジスタンス』にかき乱され、すでに3人の隊長を奴らにやられたんだ…今更許せるか!受け入れられるか…!」
第1番隊・甲虫部隊隊長、甲本誠の説得に秋津は何も言えなかった。さらに
「俺たちの憎しみはこの世界中にすでに解き放たれているんだ。やらなきゃやられるんだ。終わらせるためには他の種族をすべて滅ぼすしかないんだよ。」
第4番隊・膜翅(まくし)部隊隊長の蜂須賀裕三も続けた。
「だとしたら『天使』の存在が重要になる。あれを利用できれば。」
「ただそれは『翼のレジスタンス』が所持している。一騎当千の奴らからどう奪い取るかだ。」
「あいつら…やはり禍を呼ぶのは奴らだ…畜生!チクショウ…!」
秋津はそう言って自室に戻った。
「放つんだ。俺が…。」
秋津がボウガンを片手にとった。それから数分後、第7部隊のに召集をかけ、彼らとともに混沌渦巻く闇夜に去っていった。
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